ホタルが舞う中で幻はささやく
虹のゆきに咲く
闇夜を照らすホタルの灯り
ホタルの舞う小川のせせらぎは
まるで僕を誘うように、今から起こりえる予感を与えようとしていた
僕は一人、田舎の旅館に泊まりに来ている
旅館の女将の勧めで、僕は小川に誘われ向かうことに
夜風は、僕を現実から幻想の世界へ導いてくれているかのように誘ってくれた
突然、僕の心に響いたように川から石を投げる音が聞こえてきて
響いた音は僕の心に悲しさとしてさらに響く
投げる音に身を寄せると、そこには女性がいるではないか
黒髪の長い髪に白い浴衣
なびく髪と悲し気な瞳が僕の前に存在して
消え入るような声で僕に話しかけてきた
石を投げる理由は話さなくとも
伝わってくる感情を僕は容易に受け入れることが出来た
何らかの同じ思いが二人を小川に呼んだのだろう
二人の思いは彼女の美しい瞳に写し出されていたのだ
呼んだのは二人だけでなく
二人に今から襲い掛かる現実だった
現実とは闇を指す
それを二人は解放するために来たのかもしれない
果たして闇は二人を解放させてくれるのだろうか
戸惑いはなかった、彼女の隣に座ることを選択しない理由はなかった
理由とは、彼女の美しさ
いや、それだけではなかったかもしれない
彼女も戸惑いながらも僕のそばにいる
時はいたずらを呼ぶもの
彼女は生きていくことにやるせなさを感じていたようだ
偶然にも僕も同じ気持ちだった
ここの川のせせらぎは僕を無理やり解決させたつもりだったが
しかし、彼女が目の前に現れた
ホタルの舞う中で僕の心も舞ってしまっていた
その美しさに二人は酔いしれる
二人の短い会話のやり取りは
ホタルが近いうちに消え去っていくように短かった
ホタルは僕にとって彼女を象徴していた
彼女にとってのホタルとは何であったのだろうか
いずれにしても、ここに永遠にいつづける事を願うことしかない
浴衣姿は夏から来る不快感を取り除いてくれたのだが
それだけではない、美しさが僕の心の苦しみも取り除いてくれた
ホタルの舞う中で幻想が二人を呼んでいた
二人は互いを呼び合う
偶然だったのか運命だったのかは今としてはわからない
ただ、そこに二人はいたのだ
それで十分だった
しかし、二人は何を求めるのだろうか
理由を語る必要はない
二人がそこにいるそれだけだ
これから起こりえる事をホタルが一番知っていた
ホタルも輝きを閉じて二人を見守る
恥ずかしさを感じながら
それは二人も同じ気持ちだったに違いない
ホタルは小川の流れの音と共に美しい響きを聞くことに
しかし、二人が聞いたのは共に訪れる足音だったのかもしれない
僕のこれから起こる現実を取り除いて欲しいという気持ちで彼女に語りかけた
それは、この時が永遠に続くようにとの想いであった
しかし、なぜか彼女は拒んだ
今まででの出来事は何だったのだろうか
ホタルの一瞬の輝きだったのだろうか
彼女は名を名乗らないまま去っていた
残っていたのは僕のやり場のない気持ちと
川のせせらぎだった
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