第44話 テスト返却② 峰本さんのご褒美
その日、俺は峰本家に呼び出されていた。
久しぶりに訪れた峰本家はやっぱり圧倒されるほど大きく、俺なんかが足を踏み入れるには場違いな感じがして、敷地の前で呼び鈴を鳴らすか鳴らさないかでウロウロとしていた。
そうすること五分。
「もぅ、来てるなら早く言ってくださいよ!」
煌びやかな水色のドレスを着た峰本さんが頬を膨らませてこっちに向かって走ってきていた。
「家の前でウロウロしてる人がいると使用人に聞いて不審者かと思ったんですよ!」
「ご、ごめん……やっぱり、入りずらくて」
「遠慮なんかしなくていいから入ってください!」
そう言った峰本さんは俺の腕を引っ張って強引に家の中に引き入れた。
家の中に入って俺はさらに圧倒されることになった。
「何ここ……」
目の前には左右に登れるようになっているかね折れ階段。
頭上には豪華なシャンデリア。
左右の壁には高そうな絵画がずらり。
「私の家ですけど?」
「そんなことは分かってるよ……」
「ほら、驚いてないで早く行きますよ」
「えっと……どこに?」
「大広間です」
そう言って俺の腕を引っ張るとかね折れ階段の左側を上った。
上った先は真っ赤な絨毯が敷かれた廊下があり、視線の先には大きな木製な扉があった。
峰本さんはそのままその大きな木製の扉の前まで俺を連れて行った。
「もしかして。ここが……」
「はい。大広間です」
「えっと……俺はこれから何をさせられるの?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
俺がガチガチに固まっているのを見て峰本さんはクスクスと笑った。
「ただの顔合わせですから」
「か、顔合わせ!?」
この人は一体何を言っているのだろうか!?
「はい。父との顔合わせです」
「ちょ、ちょっと待って無理だから!いきなりそんなの無理だから!」
「だから、そんなに緊張しなくても大丈夫ですってば」
「とにかく無理なものは無理だよ」
「ここまで来たんだから諦めてください」
強引すぎる!?
峰本さんが強引すぎる!?
なんでこの人はこんなに強引なんだ!?
いきなり、お父様との顔合わせとかハードル高すぎだろ……。
そもそも、俺たちは別に付き合ってるわけじゃないんだぞ……。
そうか、俺たちは付き合ってるわけじゃないんだから、こんなに緊張することないのかもしれない。友達の父親と会うだけだ。別に「峰本さんをください」みたいな結婚のご挨拶ではないんだ。
そう考えて自分を納得させようとしたがやっぱり無理だった。
「やっぱり無理だって」
「なら、ここでご褒美権を使います」
「え?」
「だから、私が百点を取ったら褒めてもらうつもりでしたけど、私の父と会ってもらうに変更します」
「そんな今さら変更されても……」
「ダメですか?」
だからその上目遣いはずるいってば……。
峰本さんは俺のことを見上げてくる。
結局、俺はこの顔には逆らえないんだよな……。
これまでのことを思い出し俺はそう思った。
「俺は何をすればいいの?」
「え、会ってくれるんですか?」
「どうせ会わないと帰してくれないんだろ」
「私のことよく分かってますね」
「そうだな。峰本さんが強引な人だってことはよく分かってるよ」
「強引じゃなくて積極的って言ってください!」
「学校でもその素を見せれば、もっといろんな生徒に慕われるだろうに……」
「別にそんなのは興味ありません。誰にだってこんな姿を見せるわけじゃないんですからね?木村さんだから私の素を見せてるんです」
「それは喜んでいいことなのかな?」
「もちろんです。木村さんは特別ですから」
「それはどうも」
峰本さんは俺のことをもう一度見ると大広間の扉をノックした。
すると、中から男性の声で「入りなさい」と聞こえてきて、峰本さんが扉をゆっくりと開けた。
☆☆☆
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