改札を抜けると 〜改札通ったら時代が変わった〜
みたらしダンゴ
第1話 時代転送改札機
キーンコーンカーンコーン
「はー終わった終わった。早く帰って少し寝よう。」
凪沢香織はこのように呟いて席を立った。そして、足早に教室を出た。
「早くしないと快速あと7分後じゃん!」
彼女の学校から最寄りの駅まで歩いて十五分。どんなに急いでも8分が限界である。しかもここは、首都圏に近いながら駅からものの十分歩けば田んぼや畑がひろがり、駅に着く快速列車は三十分に一本、線路は一本でお互いの列車がお互いを恐れながら、へこへこ走っている超田舎なのである。
駅に着くと、電光掲示板の「先発」の部分が点滅していた。
「ヤバいヤバいヤバい!」
このように言いながら駅の中央通路を走った。そして改札機に定期券を入れた。まるでどこかの国の陸上選手のごとく通過したのである。
「よし間に合った~」
プラットホームについた香織はこのような安堵の声が出た。
なんと香織は学校から駅までを六分半で走り抜けたのである。
「ブーーーーーーーブーーーーーー」
先ほどの異常な改札通過を責めるようにLINEの通知音が鳴った。
「おまえーーーー掃除当番バックレやがってーー」
親友の秋原陽子からのLINEだった。
香織はヘトヘトになりながらもLINEを返した。
「ごめんーーー今日だけは頼まれてくんない?」
「は?いやだ」
「お願いします何でもしますから」
「お前何でもするって言ったな?じゃああああああ帰ってこい!!!!!!!!」
我ながらバカである。何でもするって言ったら、目の前の仕事をしろというのはごくごく自然なことである。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
息切れと落胆の狭間で改札へ続く階段をゆっくり上った。
いつも通りの光景が目に注がれてゆく。駅前からハンバーガー店、青果店、ゲームセンター、古本屋、銀行、スーパー、牛丼屋……まるで小学校の生活科や社会科で見たような動画とまんまおんなじ風景である。また街路樹は緑いっぱいで夏休み前の暑さ
校門は八割の謝罪の気持ちと二割の憤りを抱えた者を何も言わずに通過させた。教室もまもなく同じ割合のままの者を通過させた。教室には誰もいなかった。すると英語科で担任の向井航平と陽子が歩いてくる。
「先生~次の英検まだ申し込めないんですかー?」
「お前、まだ二次も終わってないのに次の英検の話か?」
「いいじゃないですか~二次なんて六分なんですから~」
「六分ってお前、難しいって分かってんの?!」
いかにも陽子らしい発言である。彼女は一年次に準二級を無対策で突破したのである。
だが、その無計画な性分は特に学校中の先生の目に留まっており「勉強はできるが、計画性がなく将来が不安である。」という風に認識されていた。
そんなことを考えいたら目の前に陽子がいた。
「かーーおーーりーーーーー!!!!!!!???????」
陽子が問い詰めるように言った。
「ごめんって。快速すぐ出るとこだったんだから。」
「おい。せめてウチとの仕事は忘れんといてよ。」
半分が呆れ、半分が親友の情といったトーンで話された。
「おいお前ら!」
廊下の窓閉めをしていた向井が教室の入り口で叫んだ。
ビクっとして二人とも入り口を振り返った。
「君たちテスト前部活動停止って知ってる?」
いつになくやさしい声で向井が尋ねてきた。
「あっ…」
二人は急いで時計を見た。十七時である。
「あほか!下校完全終了や!さっさと帰ってglobal warmingの意味でもおぼえてこんか!!」
「でも、掃除が…」
そう香織が言いかけた。
「掃除なんぞ一日二日せんでも同じや!さっと帰れ!」
「はっはい!」
そう言って、二人は購買へ駆ける昼の高校生のごとく学校を後にした。
「やっぱり、木本先生は数学教えるのがうまいって。」
「えー。高萩先生もうまいと思うなー。」
二人は談笑しながら駅の中央通路を歩いていた。
香織は無意識に定期券を取り出し改札口に入れた。
「えーでも高萩先生はベクト……」
「えっ?」と聞き返したら、陽子はいなかった……。
改札を抜けると 〜改札通ったら時代が変わった〜 みたらしダンゴ @MITARASHI000
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