第32話 EX1-4墓地

 二機が町医者の集落に戻ったのは夕飯を終え、就寝のために人々が明かりを落とし始めるころだった。こんな時間にもかかわらず町はずれにある共同墓地を守る墓守は町医者の頼みならばと快く少年の両親を弔ってくれた。

 焼き場から上がる黒い煙を背に機兵達は町医者の住処へと戻っていった。



 それは翌朝の事。倉庫の窓際で小鳥が朝を知らせる囀りを歌っていると勢いよく扉を開き少年が飛び込んできた。壁際のハンガーで佇んでいた青鉄色の機兵の視線がそちらに向けられる。どこか虚ろな瞳で少年は機兵を見つめると


「一緒にパパとママを起こしに行ってくれない」


 と妙にはきはきとした口調でCKに頼んだ。


(少年の両親は……)


 昨夜、少年の両親は荼毘に付された。二人は二度と目覚めない眠りについている。それは少年も知っているはずだったし、それが分からないほど少年は幼くはなかった。

 それでも事実を告げたとしても少年が納得するとは何故だかCKには思えなかった。少年の姿と何かが重なってCKには見え、その何かは分からなかったが、妙に彼の電脳をざわつかせる。


『分かった。行こうか』


 少年の頼みを聞き入れ、CKは少年をコックピットに収めると町はずれの墓地へと歩みを進めた。



 墓地から少し離れた所でCKは少年を下ろすと墓地に向かって走っていく少年の後姿を見送った。

 墓地には100近くの名前の掘られた白い長方形の板状の墓石が整然と並べられ、その中でも真新しいものが少年の両親のものだった。

 両親の墓石の前に少年は立つと何気ない口調で墓石に向かって話しかけた。


「パパ、ママいつまで寝てるの?ボク、もう起きちゃったよ。早く起きてよ」


 少年の呼びかけに応える声はどこにもない。応える声がなくても少年は喋り続けた。


「いつまで寝てるの?もう朝ごはんの時間だよ」


「今日の朝ご飯は何?パンケーキならボクも手伝うよ」


「ねえ、もうわがまま言わないから。いい子にするから。起きてよ」


 墓石の前で蹲り嗚咽を漏らす少年の姿がCKには何故か自身と重なって見えた。


(……あれは俺?俺のマスターが死んだ……?違う主は……)


 主は死んでいないと否定しようとするCK。しかし、そのメモリーは主がいなくなった雨の日からアクセス障害を起こし見ることが出来なくなっていた記録映像を流し始める。

 激しい雨と共に映し出されたのは臙脂色のパイロットスーツの腹部を赤黒く染め、固く目を閉じ地面に寝かされた男性の姿と彼に必死に呼びかけるCKの悲痛な叫び声だった。


『主が……死んでた…………』


 事実を突きつけられたCKは地面に脱力したかのように膝を落とすと呆然を空を見上げる。空を見ているその目はただ、薄明りを灯すだけで空を見てはいなかった。



 少年とCKの応急処置に壊滅した町の生存者の捜索と町医者の男性はかなり疲れていた。そんなぐっすり寝こんだ彼だからCKと少年が連れ立って墓地に向かうのに気づかなかった。

 起きてみれば二人の姿がないことに焦った男性は慌てて相棒の灰白の機兵に乗り込み、二人の行方を捜しに向かった。程なくして少年とCKの姿は町の共同墓地で見つけることが出来た。二人の姿に思わず町医者は安堵の息を吐く。


「お前らここにいたのか。急にいなくなったら心配するだろ」


 町医者が二人に声をかけると泣きはらし目を真っ赤にしても尚涙を零し続ける少年が「先生……」と弱々しく呟き灰白の機兵の方を振り返る。


『先生……主が……主はもう……』


 そう灰白の機兵に向かって言う青鉄色の機兵の声はひどく震え嗚咽をあげているようだった。


「……ひとまず、戻るぞ」


 町医者はそう言うと少年をコックピットに収め、座り込んだ青鉄色の機兵を立ち上がらせると診療所兼整備倉庫へと引きづるように連れ帰った。

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