第23話 アーティストへの第一歩

 美術専攻の1年時からの課題である素描(静物デッサン)では市村雅治と林原達郎の男子2人の上手さにはかなわないと思ってきたので、なんとなく絵画は楽しくなくなってきた麻矢。もちろん、もっと上手くなってやろう的な向上心がないわけではないのだが、別に面白さを感じているのが染色(染織・せんしょく)だ。授業で全員がひと通りの工程を学習するのだが、「ろうけつ染め」で自然の植物などを平面の布に立体的に表現することが面白いと思ったのだ。

 「ろうけつ(蝋結) 染め」とは、溶かした蝋(ろう)で筆使って模様を描き、その部分に染料が入らないことを利用して図柄を表現する技法。蝋伏(ろうぶせ)ともいう。

 白地に蝋を塗って黄色で染めれば、蝋を塗ったところだけが白く残る。次に、その上(黄色い分)に蝋を塗り、青い染料をかければ、黄と青の掛け合わせで黄緑色の地となり、白と黄の柄が浮かび上がる。こうして色を重ねていって多色が表現できるのだ。

 色と色の掛け合わせは「色彩検定」資格を取得するための授業でも勉強しており、1年時の6月に2級を、11月に2級を取得済み。もちろん麻矢だけでなく美術専攻の28人全員が検定をパスしている。

 麻矢は草花や樹木をモチーフに試作を繰り返して、ある程度イメージに近い配色による表現ができるような気がしたので、大きな作品制作にチャレンジ。クラス内の評価が高ければ一般公募のコンクールに応募できるので放課後も頑張った。

 完成したのは180×90㎝、家屋内にある襖(ふすま)や障子の引き戸1枚のサイズに竹を表現してみた。高校生にしては渋いジャンルで、どのような作品が評価が高いのかはよくわからなかったのだが、クラスの大半が洋画や日本画でチャレンジした中で非常勤講師の山田先生の評価は高く、とても良い仕上がりになったという評価に全員が賛同した体(てい)で応募決定となった。

 山田先生は東京の有名な美術進学予備校を経て合格した国内の美術系最高学府である東京藝術大学出身。もちろん努力と精進の賜物であるが、学歴的キャリアとしては参考にするべき理想的な展開、語る言葉にも生徒たちに刺さるものがある憧れの存在でもある。その先生による高い評価に異論を唱える生徒たちではない。麻矢のタペストリー「竹」は北九州市の「芸術祭」に応募されることになった。

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