第20話 2コ上の3期生の卒業制作展示会

 2000年4月から男女共学校となった桃園中央高校、2002年12月に芸術コース第1期生の卒業制作展示会「卆展」が行われており、今年は第3期生の「卒展」が市立美術館で6日間の開催となる。前日に搬入と展示準備が行われるため、早朝から美術部員84人と書道部員36人が学内で搬入準備を始めた。

 1年生(第5期生)の山鹿麻矢たちはまだ目立った入賞作がないので設営というより指示された物を運ぶことが主だった。日曜日に搬入と展示準備をして1週間後の展示最終日の日曜日に撤収するため、毎週日曜日に美術進学予備校に通っている大和先輩ら受験生5人はこの会場には来ていない。3学年合わせて100人以上が設営作業をする中で、男子は麻矢と市村雅治、林原達郎の1年男子3人と、松村さんと星野さんの2年(第4期生)の先輩男子2人の5人だけ。脚立に上る高所の作業は美術科の先生と講師、そして男子での作業になっていた。

 第3期生の卒業記念制作作品の展示がメインだが、今年のコンクール入賞作品は全学年展示された。注目は東京藝大の美術科・絵画科への現役合格を目指す卒業生・大和義一のコンクール入賞作品。金賞の「森と湖のある風景画」や「全国学芸コンクール」で全国1位の作品は写実的な風景と幻想的な機械的動物が融合した力作、広島県の「尾道のまち四季展」では尾道賞に輝いてフランス・パリのルーブル美術館招待を得たほか、高校生や学生に限定されない一般公募の北九州芸術祭や福岡県美術展覧会など県内のコンクールでの受賞も数えきれないほど。

 芸術コースの双璧である書道専攻の卒業生たちの作品も同様に凄い。高野山の競書大会では特選、高校生国際美術展では文部科学大臣賞、全国硬筆コンクールでは審査委員会賞、全国高校書道コンクールでは部門賞などの受賞作品が並んだが、最近メディアに取り上げられるのは派手なパフォーマンスのほうで「書道パフォーマンス甲子園」には今回の卒業生が2年時に初出場を成し遂げ、今年で2年連続出場を遂げており、そのパフォーマンスVTRが書道専攻コーナーの目玉だ。

 大画面で投影できるようにプロジェクターをセッティングする非常勤講師の山田先生を手伝う麻矢。書道パフォーマンスが投影された。

 「すごい派手、まるで体育会系ですね」と言う麻矢に山田が「地味な書道のイメージを変えたね、今や華になっているし」

 「ボクらにもこんな見せ方ができれば面白いのに」

 「…まだ決定じゃないけど、来年度用として美術のほうに教育テレビから企画がきているんだよな」

 「テレビってことは放送が前提ってことですよね」

 「と思うけど、詳しくはまだ先生たちと検討して受けるかどうか~の段階だけど」

 「テレビって、なんですかあ?」と森本麻衣子が麻矢の後ろから会話に入ってきた。

 「まだ決まったことじゃないから、気にしないで」と言う山田に

 「いや~ん、気になりますよ、せんせ~い」と麻衣子が目をハートにして絡む。

 「だめだぞ、まだ美術専攻の生徒さんで、というだけでどの学年なのか、どの専門分野なのかも決まっていないんだから」と山田はこの話題を終わらせようとするが

 「来年度ってことは、先生、アレじゃない。もう新3年生は受験対策で忙しいし、新1年生は何もわからないし、必然的に私たち新2年の役目じゃないですかあ、やったあ~」と決めつける麻衣子に、山田の「そっ、それはわからんぞ、各学年の選抜かもしれんし」という回答が苦しそうに麻矢には見えた。

 「選抜ならワタシ、立候補するので。せんせ、よろしく…」という麻衣子の言葉が終わらないうちに山田先生は「まっ、年明けには大組みを発表できると思うから楽しみにしてて」と言いながら、その場を離れた。麻矢には麻衣子の言った「新2年の役目」が山田先生に「ズボシっ」とクリーンヒットしたと感じた。

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