第16話 最後のスカイラインGT
2000年3月20日
山鹿史矢と麻郁(まあや)夫婦は九州のテーマパーク人気ナンバーワンのハウステンボス(HTB)が大好きで、まだ格安だった年間パスポートを継続していたこともあり思い立ったら日帰りで、ゆっくりできる時間があるときは1泊を予約して出かけた。JRとホテルのパックツアーで列車に揺られて往復したこともあるが、明日行こう~という時はレッドのスカイラインGTを長崎へ走らせた。
スカイラインは新車で購入3台目、それまでの愛車は銀行ローンが終わるたびに乗り換えるパターンだったが、今回はローンが終わって2年目、車歴としても5年目となったが乗り換える予定はない。
中古車情報誌の週刊くるまニュースで取材や編集をしていたため売り物件の情報に困ることはなく、欲しくなる車両情報もあった。が、この当時の輸入車はBMWでもメルセデスでもVWでも5年7万㌔を超えると安く買えるがトラブル続発で修理工場に入っている期間が多く費用もかかるので通勤車としては無理、趣味としてセカンドカーとして楽しむのが良いとされていた。国産車はすでに輸入車を上回る品質となっていたし、2000年以降に発売された新車は10年10万㌔はブレーキやタイヤ、バッテリーなどの消耗品さえ交換してれば普通に乗れるようなハイクォリティーとなっていたので、国産車ならば中古車となってもメンテナンス記録がしっかり残っていれば市場価値のあるものとなり、中古業者も売りやすい物件が増え、また若い人でもクラウンやシーマなどの高級車に手が届く価格となってきたことで、その情報媒体として中古車情報誌も存在価値があったわけだ。中古車は元新車だが、その使われ方や装備、色などがさまざまなため「1点物」とされる。程度と装備が良くてお手頃価格だと人気車種ほど争奪戦になるし、最初に商談に入れた客が有利になるので、毎週の雑誌発売直後は中古車店のお目当て車を目指して競争が始まっていた。
スカイラインは歴代のエンジンとして絶妙の回転バランスを誇る直列6気筒エンジンをGTの証しとして搭載を続けていたが、この直列6気筒の歴史も現行型の第10代目であるR34型で終わり、次期R35型はコンパクトなV型6気筒エンジンに換装されることがすでに決まったと専門誌で報じられており、スカイラインという車名も無くなるのではないかと記す評論家もいたので“R34型が最後のスカイラインGT”として話題になっていた。
年度末の決算時期を狙った日産のディーラー・プリンス店での商談をほぼ決めた山鹿史矢だったが、最後の色の選定に悩んでいた。ディーラーの若い営業マンは「スカGなら渋いシルバーやグレー系でしょ」と勧めてきたが、これなら人気の色で在庫があって納車も早いという店の都合もあった。色が選べるのは新車購入時だけの特権だし、趣味のクルマとしては世間体を気にして無難なホワイトやグレー、ブラックを選ぶことはしたくなかったのだ。
最後に決めたのは入院先から週末外泊で帰ってきていた中学2年生の郁矢、スカイラインのカタログを見せると「赤がカッコいい、おとさん、赤にしたら」と背中を押してくれた。営業マンによると赤は受注生産なので納車はかなり遅れるとのことだったが、鮮やかなレッドを纏ったR34スカイラインGTが2か月後に納車され、今も快調にドライブの主役になっている。
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