第14話 平日のハイウェイスターで誕生パーティーへ
2000年3月31日
週刊くるまニュースの編集部は駅から徒歩5分のテナントビル11階の一室にあり、山鹿史矢は九州各地を取材と営業で駆け回る毎日。外回りが集中する週は社用車でそのまま直帰することも多く、空き時間ができたり、直帰する前には長男・郁矢が入院する総合病院に立ち寄れるようにしていた。
社用車はカローラ・バン。毎週刷り上がった雑誌を直接郵送で購読する読者や広告クライアントらに掲載誌として送るために郵便局へ持ち込むために荷室が広くて安いビジネスカーとして重宝した。
カローラ・バン7代目のE10#型は1991年から2002年までにトヨタから発売されたロングセラーモデル。乗用カローラの7代目は手抜きなしのハイクオリティーな車台で大好評のモデルとなり、それをベースにした商用モデルだったため走りも良く、乗用モデルが8代目、9代目とチェンジしてもバンはそのままチェンジせずに継続販売された。FF(前輪駆動)だったが小回りも利き、エンジンも非力だったが、ほぼ1人乗りの 平日の高速道路なら「平日のハイウェイ・スター」と陰口が叩かれるほど、追い越し車線をぶっ飛ばしているのは太いタイヤを履かせていかにも早そうなメルセデスでもクラウンでもなく、細いタイヤのカローラ・バンだった。一刻を争う敏腕ビジネスマンたちは運転もうまくないとノルマを果たせない。高速道路は計算通りに時間短縮ができるステージだからである。山鹿史矢もこのステレオも付いていないラジオだけのカローラ・バンで運転テクニックを磨いたのである。
長崎市のお得意様の中古車店へ年度末の集金を兼ねて出張中だった山鹿の携帯電話に妻・麻郁から連絡で夕方から長男・郁矢の自宅外泊が1か月ぶりに許されたというので、フル回転でお得意様ルートをまわった午後4時30分、長崎多良見インターから高速道路に入る手前の電話ボックスから会社支給のテレホンカードで編集室の松原課長へ直帰の連絡をしてから約180㌔先の我が家を目指してカローラ・バンで爆走。
制限速度通りに走れば休憩なし渋滞なしでも3時間近く以上かかるのだが、速いクルマの後ろを刺激することなく同じペースで飛ばし、速いクルマがいなくなると走行車線で制限速度で走って速いクルマが追い越していくのを待つパターン。流れの先頭で飛ばすのは緊張感のせいか周囲の状況を見落とすことがあるが、後ろでのハイペース走行なら余裕で覆面パトカーも発見しやすく、それに気が付かない先行車が幾度も覆面パトカーの餌食にされているのを目撃している。
途中の太宰府インター付近の渋滞もたいしたことなく午後6時30分、所要2時間で八幡インターへ、そこから約10分で我が家の車庫へ到着。先に麻郁のホンダ・ロゴも病院から帰っており、山鹿史矢はその後ろに駐車した。
長期入院となっている郁矢は中学2年の男子、小学5年の時に脳神経系の腫瘍が見つかって以降は手術と治療で入退院を繰り返しており、この日は14歳の誕生日ということで外泊が許された。弟の麻矢はこの時で小学5年の11歳、久しぶりに兄ちゃんとウチでゲームができると大はしゃぎ。両足と手指に麻痺があるにもかかわらず3歳の時からファミコンを使いこなした郁矢は、わずかに動く手首と親指でコントローラーを駆使してゲームで麻矢を負かし「なんで指が固まっている兄ちゃんに勝てんの~」と悔し泣きさせるほどだった。
お誕生ケーキを囲んだ楽しい夜は、我が家で4人で過ごした最後の誕生パーティーとなるのだった。
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