第6話 東京の有名美大に合格確実の先輩がいた!
2004年5月10日
学校の週休2日制が推進されて授業が無い土曜日も増えてきたこともあり4月下旬から5月上旬は「ゴールデンウイーク」と呼ぶ大型連休も可能なカレンダーだったが、週刊のクルマ情報誌の編集業務を任されている立場にとっては大型連休は無理。先月の日曜出勤の代休として月曜日を休んで土曜日からの3連休にして2泊3日でTDLやUSJ行きも可能ではあったのだが、麻矢も「保護者観覧日の学内作品展示」のための祝日や日曜も部活登校だったので、父・史矢も愛車スカイラインでの遠出は断念し、午前中に麻矢を高校へ送った後は取材営業の途中で寄ったランチがおしゃれだったカフェへ麻郁とドライブして夕方にまた迎えに行く連休になった。
休みをつぶして学校へ行くなんて麻矢もご苦労だな~と思う反面、彼女?(マイちゃん)も一緒だし~苦労ではないかな~とも思った。ズル休みを稚拙に企てていた中学~高校時代の両親とは違って、中学時代から学校が楽しくてしかたなかった麻矢だった。
高校は電車のバス停からは徒歩で10分以上かかる丘陵地にあり、その敷地のすぐ南には県道が通じて美術部室への通路が近かったため、麻矢を車で送るときは正面玄関より県道そばで降ろしていたのだが、学校の行事に参加するには正面から入らないといけないし、この日は保護者用の駐車場も開放されなかったので最寄りのバス停から徒歩コースを選択した。
芸術コースのクラスは40人、28人が美術専攻、12人が書道専攻となっており、普通学科は教室を共にしているが、それぞれ専門教科の時間は別教室での実習となっていて、さらに部活では主にコンクール応募作品を手掛けることになっていた。
異臭とまではいかないが、油脂や粘土が混じったような臭いがするほうに麻矢らの美術展示室があった。新入生14人の自画像がメーンに展示されており、同時に2年生と3年生のコンクール入賞作品の油画や彫刻、陶芸作品の多くが展示されていた。
工業高校時代に悪友らと学内に漫画研究同好会を立ち上げて、文化祭の日には当時でも人気キャラクターだった矢吹ジョーや山田太郎、里中サトルを模写したカラーイラストで小銭を稼いでいた父・史矢にも、わずかばかりの絵心はあったのだが、麻矢の先輩たちのコンクール受賞作品は圧巻だった。その中でも蒸気機関車が描かれた全国最優秀作品賞を受賞のそれは3年生だったが「これが手書きなのか」と疑うほど異次元の画力で鳥肌が立ったほど。なるほど、同時に展示されていた卒業生たちの代表作品と関東の有名美大への進学実績も誇らしげだったわけである。
「めちゃめちゃウマい先輩がいるね」
「誰がウマいと思った?」
「3年の機関車の~」
「ああ、大和さんね。先輩たちみんなウマいけど大和さんは別格よ」
「そうやろ~」
「美大出身の先生たちからも既に東京の有名美大に受かるの確実視されてるし、東京藝大も狙えるってよ」
東京の有名美大から有名なクリエイターが発出されていることは当時流行していたカルチャー雑誌で知っていたが、そんな可能性を秘めた先輩が2コ上にいるとは。~これなら車を描かせても凄いはず、すぐに毎週の中古車情報誌の表1(表の表紙・扉絵)を任せられる画力だ~と感じながら、~麻矢でもひょっとしたらあと2年でこのレベルに到達できるのかもしれない~と楽しみになってきた史矢であった。
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