第7話 魔男修行?
レンファは、昼前になってようやく起きてきた。彼女は椅子に座ってぼんやりしながら、ミルクとサツマイモの入ったスープをズズズとすすっている。
その後ろに立つ母さんが、寝ぐせ付きのふわふわした髪の毛にブラシを通していて――なんだか、これじゃどっちが年上なのか、どっちが元美容師なのか分からないな。
でもまあ、レンファはもうウチの子らしいからね。こういう姿の方が自然なのかも?
しばらくの間は妹か。僕は早く結婚したいのに、ちょっと残念だ。
セラス母さんが言うには「結婚したいなら、まず18歳になりなさい」だってさ。
今だいたい12歳だと思うから……あと6年? いや、でもあっという間に春が来るから、あと5年ぐらいだね。
実は僕、自分の誕生日がいつなのか分かっていないんだ。
前にチラッと村の人が話しているのを聞いたら「冬生まれだから全身が真っ白なんだ」みたいなことを言っていたような――だからたぶん、これから誕生日を迎えるはず。
だいたい12歳っていうのも、前の母さんに「10歳にもなってまだ満足に薪割りすらできないの?」って叱られたことがあって、そこから2回は冬を越したから、たぶん12歳。
ちなみに、セラス母さんは夏生まれなんだって。元気いっぱいでハキハキしているから、なんだからしいと思った。
ゴードン父さんは秋生まれみたいだけど、僕がこの森へ来る少し前に誕生日が終わっていたんだ。だから僕はお祝いできなかったけど、母さんと父さんは2人でお祝いして、美味しいものを食べたんだって。ずるい。
レンファは――正直、聞かなくても分かった。名前が春のお花だからね、春生まれだ。だけどソレは、
今のレンファが入っている体は――って言うと、なんだか変だけど、僕と同じ冬生まれらしい。
いっそ、レンファと同じ日を僕の誕生日にしちゃおうかな? でも同じにすると、迷惑そうな顔をされるかも。
「アレク」
いつの間にか、レンファはしゃっきりした顔に変わっていた。僕は名前を呼ばれただけで嬉しくなって、笑って首を傾げた。
「14時か15時にはゴードンがやって来ます。そうしたら、また皆で街へ行きましょうか。いい加減目薬の追加を受け取らないと」
「ああ……そうだね、行こうか」
「時間まで、私は森で薬の材料を探しますけど――」
「僕も行くよ。根っこを掘り返すの、楽しいし」
レンファは小さく肩を竦めて「さすがウサギくん、本当に穴を掘るのが好きですね」って呟いた。
セラス母さんがニヤニヤしながら「お兄ちゃんと仲良くしなさいよ」って言えば――大きなキツネ目が半分になって、口もへの字になる。可愛いなあ。
「お兄ちゃんの言うことは絶対だよ! 分かったら、僕と結婚するんだ!」
「アレク、その台詞……関係性が変わったせいで、なんだか以前にも増して気持ち悪いですよ」
「うん!」
「うんじゃなくて――」
レンファはまだ何か文句を言っていたけど、僕は森へ入る準備をするために外の物置へ向かった。
スコップと雑巾と、あとカゴ! 根っこを途中で切らずにキレイな形のまま掘り返すのは、すごく楽しいんだ。
母さんと父さんから「化石の発掘が向いてそう」って言われるほど、僕は仕事が丁寧らしいよ! 化石がどんな石なのか、ひとつも知らないけどね。
◆
葉が枯れ落ちて枝だけになったせいで、鬱蒼としていた森にも太陽の光が差し込むようになった。
それでもまだジメッと、しっとりしているけど、葉で覆い隠されていた頃と比べたらマシかな。
僕は、レンファに指差された地面の周りを目掛けてスコップをザクザク刺していった。そうして周りから少しずつ土を崩して、草花の根っこを掘り返すんだ。
ずっとスコップを使っているとどうしても根を傷付けやすいから、途中で雑巾を使いながら、手で優しく掘る。
太い根っこからヒゲみたいにヒョロヒョロ長く伸びた根、それ全部キレイに掘り返せた時の達成感と言ったらないよ!
レンファは「そこまで完璧にこだわる必要はありません、適当に掘れば良いんです」って言うけど――全く、分かってないなあ。
僕はキレイな根が欲しいんじゃなくて、キレイに掘り出せたっていう〝体験〟が欲しいんだ。楽しいからね。
そうして根っこ掘りに夢中になっていると、隣で「早くしてください」って急かしていたレンファが、いつの間にか静かになっていることに気付いた。
横目で見ると、さっきまでしゃっきりしていたのに、またボーッと眠たそうにしている。
「……眠い?」
掘りながら聞けば、レンファは僕をチラッと見た後に小さく頷いた。
「母さんが言ってた、たぶんレンファは成長期だって。寝る子は育つらしいよ」
「……私のコレは、少し違うかも知れません」
「そうなの? じゃあ、やっぱり冬眠だね――あ、採れた! はい、根っこ」
10センチくらいの長さの太い根には、びっしりと細いヒゲが生えている。軽く振って泥を落としてから、カゴの中に入れる。
時間に余裕があれば小川の水をバケツに汲んで、丁寧に洗ったんだけど――今日はあまり時間がないから、家で処理することになった。
根っこは全部で5本採れた。レンファは眠たそうだし、これから街だし、そろそろ帰らなきゃ。
本当は手を繋ぎたいけど、泥で汚れているから我慢する。
「――初めてなんです」
「うん? 何が?」
「こんなにも起きていられないのは、初めてで」
「そうなんだ……冬生まれなのに、冬に弱いのかな」
「たぶん、冬だけじゃないんです。これから冬が明けて、暖かくなっても――どんどん活動時間が減っていきそうな気がして、なんだか――」
「……そっか」
言葉を途中で切ったレンファの顔は、すごく頼りない感じがした。僕はどうしてか、〝魔女の家〟だったガレキの山を思い浮かべる。
もしかしたら、レンファの
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