第7話 文字の勉強
体を大きくするために、僕は1日5回もご飯を食べさせてもらえるようになった。
朝昼晩はセラス母さんと同じご飯で、15時と寝る前にプロテインバーっていう、ボソボソしていてちょっと味の薄いお菓子をもりもり食べる。
どうせ食べるなら、レンが作ってくれた美味しいバタークッキーが良いんだけど――ひとつも用がないから、レンのところへは遊びに行けないんだよなあ。寂しい。
この森に来たばっかりの頃はお腹がペッタンコで、いっぱい食べたくてもあんまり食べられなかった。でも1日に5回も食べるようになってから、ご飯をおかわりする回数が増えた。
いくらでも食べられるのが嬉しくて、ついパンパンになるまで詰め込んじゃうんだよ。
しかも、僕が「おかわり」って言わないと、セラス母さんに「美味しくなかったの……?」ってしょんぼりされちゃうんだ。
あれはもう、おかわりしない訳にはいかないよ。いっぱい食べるとギューッてしてくれるしね。
ゴードンさんに言ったら「
やっぱり、セラス母さんのことが好きで仕方がないみたいだ。もしかしたら、母さんもゴードンさんが好きなのかも? 目を見ていると、なんだかそんな気がした。母さんもゴードンさんも何も言わないけどね。
ゴードンさんはたくさん美味しいものを持って来てくれるから、好きだ。正直プロテインバーはあんまり「美味しい!!」って感じじゃないけど――体を大きくするには、ちょうどいい食べ物なんだって。
あと、これは母さんやゴードンさんに言ったら心配されると思って内緒にしているんだけど――いっぱい食べるようになってから、夜寝ている時に足が痛くなることが増えた。
食べ過ぎなのかなあ、もし変な病気だったらどうしよう?
少し前までは可愛い魔女に会ったからいつ死んでも良いやと思っていたけど、今はレンと結婚してから死にたいと思っているからなあ。
ちょっとだけ怖い。もしずっと痛いのが治らなかったら、その時は母さんに話してみよう。
◆
ついこの間セラス母さんに授業してもらった道徳も、少しずつだけど分かることが増えた。
考えることをやめちゃダメだって言われたから、掃除しながら考え事をする時間も増えたかも知れない。
僕はカウベリー村が好きだったのかな、本当に家族のことが好きだったのかな。
いじめられるのは本当に仕方がなかったのかな、嫌われて当然だったのかな。僕は、なんで『負けっ放し』でも生きられたのかな。
どうしても途中で胸がゾワゾワして考えるのをやめちゃうんだけど、見てみぬフリだけはしないようにするって決めたんだ。
だから、何度でも考える。納得できる答えはまだ出ないけど――。
「――あ!! み、見て! セラス母さん!!」
大人になった時に困らないように、今日は文字を教わる日だ。
村では文字の読み書きができなくても困らなかったけど、外に出るとすっごく困るんだってさ。
僕は一生この森で暮らしたいと思っているから、契約書なんて読むことはないと思う。でもレンの名前を読むためには、まず普通の文字を覚えないといけないんだ。
今は勉強の休憩中で、母さんは台所に立ってお茶を淹れてくれている。
その間に、この前ゴードンさんが持って来てくれたレフラクタ文字が書かれた本を見ていたら――レンが書いたメモとそっくりなヤツを見つけたんだ!
何回も何回も見て、ようやく見つけた!!
「どうしたの、何か面白いものがあった?」
「これ!! たぶん、レンの名前と同じヤツだと思うんだ……」
「……どれどれ?」
母さんは2人分のお茶をテーブルに置いてから椅子に腰かけて、僕が指差したところをじっと見た。
――レフラクタ文字は、すごくわかりづらい。
今母さんに教わっている文字が角張って1文字1文字キッチリしているとしたら、レフラクタ文字はまるでミミズだ。
母さんは「草花や動物を
レンが書いて渡してくれたのはツタとツタが絡み合ってできたみたいな文字だから、まずどこまでが1文字なのかが分からなかった。
今の文字はお行儀が良いけど、レフラクタ文字は「読めるものなら読んでみろ」ってケンカ腰な感じがする。
そんないじめっ子文字と何日も睨み合って、僕はようやく形が似たものを見つけられたんだ。
「ああ、良いわね、アルすごいわ。こんな短期間でレフラクタ文字を判読できるなんて……きっと集中力がすごいのね。肝心の現代文字は、からっきしだけど」
「うわあ、本当に!? やった、あとは今の文字を覚えて読むだけだね!?」
うねうねのレフラクタ文字の下には、誰でも読めるように今使われている文字が当てはめられている。
――僕レフラクタ文字を調べるのに夢中で、実は今の文字の勉強がほとんど進んでないんだよね!
セラス母さんはちょっと呆れたみたいに半目になって「読むべきレフラクタ文字が分かったんだから、休憩明けからは真面目に勉強しなさいよ」って僕の頭をコツンと叩いた。
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