第4話 今後の方針
昼休み。
俺は昨日あった出来事を、友人の
「‥‥‥てなことがあったんだ」
「くく、あはははは! さ、さすがは
彼は話を聞き終えるなり、笑い声を上げる。ひっそりと目尻に浮かんだ涙をぬぐっていた。
「さすがってお前、霧矢のこと知ってたのか?」
「知ってるもなにも結構有名だぜ? まぁ俺の場合、同中だったからってのもあるけど、多分大抵のやつは知ってると思う」
「なんで?」
「なんでってそりゃ、可愛いからだろ。俺なんか最初見たとき、芸能人かと思ったし。あんだけ顔が整ってて目立たないわけねーって」
確かに、うちのクラスにいるジャニーズ風のイケメンも、よく他クラスの女子から黄色い声援を送られているのを耳にする。
それを踏まえると、霧矢の認知度が高いのも頷ける。
「ま、霧矢花蓮の場合はそれだけじゃねーけどな。あいつ、根本的に頭がおかしいんだよ。やることなすこと大体ズレてるんだ。それが原因で、注目集めがちってのもあるんだろうな」
「なるほど。じゃあ、なんで俺は今まで霧矢のことを認知してなかったんだ?」
竹本は、はぁ?と呆れた顔を浮かべ。
「そんなの俺が知るかよ。自分の胸に聞けって。まあ、九条の場合、人への関心が薄いからな。他クラスまで注意が働いてなかったんじゃねえの?」
「あー‥‥‥言われてみればそうだわ」
竹本は椅子の背もたれに肘をかけ、ぶらんぶらんと器用に船を漕ぎ始める。
「で、九条。お前、霧矢花蓮と付き合うのか?」
「付き合った方がいいと思うか?」
「質問を質問で返すなよ。ま、俺個人の意見でいえば、付き合って欲しいけどな。そっちの方が面白そうだし!」
「なら、付き合うのはナシかな」
「はぁ⁉ なんでそうなんだよ! そこは付き合えって!」
「お前が喜ぶ顔を見たくないんだ‥‥‥」
「わかった。絶対喜ばないから。喜ばないって誓う! だから、霧矢花蓮と付き合ってくださいお願いします!」
ガバッと勢いよく椅子から立ち上がる竹本。
ゆさゆさと俺の肩を揺らし、懇願してくる。どんだけ必死なんだ、こいつ‥‥‥。
「おぇっ。肩を揺らすな気持ち悪くなる。冗談、冗談だから」
「んだよ。冗談か」
「いや、あながち冗談とも言えないか」
「え? 付き合う気はないってことか?」
「ああ。このまま俺が百回告って、霧矢と付き合ったとするだろ? でも、それで上手くいくとは思えないんだよ」
竹本はまぶたをパチパチさせる。
「‥‥‥ん? なんで?」
「だって、意味わかんないだろ? そもそも、昨日が初対面だぞ。なのに、そこに恋愛感情が介在してるとは思えないっつーか。どう考えても、霧矢が俺のこと好きなわけないだろ?」
例えば、俺の方から一方的に霧矢のことを好きになるパターンならあるだろう。彼女の容姿に一目惚れをするのは、別段おかしな話ではない。
だが、霧矢から一方的に俺を好きになるパターンは、あまりにも考えにくかった。
容姿、体型ともに至って平凡。探せば、俺みたいな外見のやつはいくらでもいるだろう。そんな俺に一目惚れするはずがない。
「うーん‥‥‥。九条の言いたいことは分からんでもねえけど。絶対、霧矢花蓮はお前のこと好きだぞ? そうでもなきゃ、百回告白しろだとか言うわけがないって。安心しろ」
俺の肩をポンポンと叩かれる。
「そうか? どうにも俺には、裏があるような気がして‥‥‥。つか、大元に戻るけど、なんで俺一〇〇回も告白しないといけないんだ? 一回じゃダメなの?」
「俺に聞かれてもわかるわけないだろ。本人に直接聞けって」
ふと竹本は何かを思いついたのか、椅子で船を漕ぐのをやめる。そして、ピンと人差し指を立ててきた。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて提案してくる。
「あ、じゃあ、こういうのはどうだ?」
「ん?」
「霧矢花蓮の要望が一〇〇回告白することならさ、九十九回告白して、そこで打ち止めにする。そこでお預けを喰らわされるのは地獄だろうからな。きっと、黙っちゃいられないはずだ」
「ほう‥‥‥それをして意味があるのか?」
「あるに決まってるだろ。俺の予想だと、霧矢花蓮は告白させようと、九条にあの手この手で迫ってくるはずだ。その様を見てたら、さすがに霧矢花蓮がお前のことを好いてることが伝わるだろ?」
「あー‥‥‥なるほど‥‥‥」
竹本の言い分は一理あるような気がした。
好きでもない相手に、告白させようとあの手この手で画策はしない。
俺が九十九回告白してやめた後の、霧矢の反応を見れば。
彼女が俺のことを本当はどう思っているのかが知ることができるって寸法か。
「いい案だな。採用する」
「お褒めに預かり光栄です」
含み笑いをする竹本。
完全に面白がってんな。
何はともあれ、話もひと段落ついたところで。
俺はここまでスルーしてきた点について、訊ねてみることにした。
「つか、ずっと気になってんだけど、なんでお前ずっと、霧矢のことフルネームで呼んでんの?」
竹本は、基本的に人のことを名字で呼ぶ。
なのに、霧矢にだけは『霧矢花蓮』とフルネームで呼びだ。それが、どうにも気持ち悪くてずっと気になっていた。
「ん? ああ‥‥‥。なんか呼びやすくね? 霧矢花蓮って名前がさ。だからフルネームで呼んでんの」
「呼びやすいか? うーん、まあ呼びやすい方かも知れないけど。いちいちフルネームで呼ぶの面倒じゃないか?」
「でも、もう呼び慣れちゃったからなあ」
竹本は後頭部の後ろで腕を組み、あっけらかんと言う。
それから程なくして、チャイムが校舎中に響き渡った。午後の授業、開始の予鈴だ。
「じゃ今度、途中経過聞かしてくれよ」
「気が向いたらな」
竹本はすっくと席を立ち上がり、自分の席の方へと向かっていく。
九十九回告白してやめる、か。
そのためにはまず、あと九十七回告白をしないとな。
放課後になったら、霧矢に会いにいくとしよう。
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