第8話

~スミレサイド~


あれから何時間経過しただろうか?



口にねじ込まれたパンはどうにか飲みこんでいた。



今の所体に異変はないから、毒などは仕込まれていなかったようだ。



しかし喉の渇きは加速していた。



こんなことになるなら牛乳を飲んでおけばよかった。



ゴロリと部屋の中に横になっていると、手足の感覚がマヒしてくる。



時々体勢を変えてみるけれど、拘束された状態なので血流はよくならない。



あたしはジッとドアを睨み付けていた。



今度覆面男が入って来たらテーブルを蹴り上げて攻撃してやるつもりだった。



しかし、いくら待っても誰も来ない。



ただ床に転がっているだけでも、体力は徐々にすり減って行く。



眠気に近いけだるさが体を襲って来たその時だった。



途端に尿意を感じてブルリと体が震えた。



そういえばここに連れて来られてから1度もトイレに行っていない。



そろそろトイレに行きたくなってもいい時間だった。



あたしは背中側にあるドアを見た。



この先にはなにがあるんだろう?



もしかしてトイレやお風呂があるんじゃないか?



そう思い1度上半身を起こしてみた。



でも、ここから立ち上がる事が難しい。



壁にしっかり背中を付けて両足を踏ん張って体を起こす。



しかし手足がしびれているため、簡単に立ち上がる事はできなかった。



血の流れは悪く、手足の末端は驚くほど冷たい。



そのせいで余計にトイレに行きたくなってきてしまう。



「もう……最低」



そう呟いた時だった。



テーブルの向こう側のドアが開いたのだ。



ハッとして顔を向ける。



そこ立っていたのは覆面の男だった。



けれどさっきの人とは違うようだ。



こっちの方が少し小柄に見えた。



「お願い! トイレに連れて行って!」



あたしはすがる思いでそう言った。



男があたしを見てズボンのポケットから何かを取り出した。



一瞬何かの武器かと思い、身構える。



しかしそれはスマホだったのだ。



相手はスマホのカメラをこちらへ向けている。



何をするつもりなんだろうか。



背中に冷や汗が流れて行く。



暴行されてその様子を撮影されてしまうのかもしれない。



そう思い、あたしはお尻を引きずるようにして後ずさりをした。



男は何も言わずに近づいてくる。



「やめて……」



か細い声でそう言っても、男がやめてくれとは思えない。



気が付けば男はすぐ目の前まで来ていた。



恐怖で表情が歪む。



体の芯から冷えて行くのを感じる。



次の瞬間、男があたしの腹部を踏みつけて来たのだ。



痛みと恐怖でうめき声が上がった。



「やめて……やめて……」



ブルブルと左右に首を振り、体を転がして逃れようとする。



けれど男はすぐに追いついてまたあたしの腹部を踏みつけた。



膀胱が刺激される。



歯を食いしばり痛みと尿意に耐える。



そんなあたしを撮影する男。



恐怖と悔しさで涙が滲んできた。



どうしてこんなことをするんだろう。



この人の目的はなんなんだろう。



男がまた腹部を踏みつけて来た。



今度はジックリと押すように。



「うっ……」

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