MIXってなんですか

 "愛を語る前にその窓を開けろ

 両目を見開いて 足を踏んばって

 世界を語るんだ 自分の言葉で

 So, just break through the darkness"


 自分のにおいの染みついた布団の中で嘘つきマドレーヌの公式動画を1本視聴し、わたしは刈田くんにLINEを打った。飼い猫のみかんが枕元でとろとろと微睡んでいる。

「質問してもいいですか? 前奏とか間奏のときみんなが何かかけ声かけてるやつ、あれってなんて言ってるんですか?」

 すかさずスマホが震え始め、みかんがびくりと飛びのいた。

 実はかかってくるんじゃないかと思っていた。嘘マドに関することなら、刈田くんは光の速さで情報を届けてくれる。

 親や先生のように「自分で調べてから訊け」と言わない。そこが好きなのだ。いや、変な意味じゃなく。


『それはね、MIXです』

 刈田くんの声は、電話を通して訊くと少しざらりとして耳に心地よかった。

「みっくす?」

『そう。アイドルによってアレンジが異なるけどね、基本は、……タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー! ですね』

 どこかの国の呪文のようだとわたしは思った。

「ずいぶん暑苦しいよね」

『2番の前の間奏では、これの日本語バージョンを使うことが多くて』

「え、ちょま、ついていけない」

『虎! 火! 人造! 繊維! 海女! 振動! 化繊飛除去!』

「……ごめん、最後なんて言ってるの?」

『化繊飛除去。かせとびじょーきょ、って感じで』

「かせ……なるほど。意味は?」

『意味は知らない』

「知らないのかよ」

 おかしくなって、わたしはげらげら笑った。

 一拍遅れて、刈田くんも笑いだした。


「ところで、『NEVER AFTER』を全部聴いてみたよ。メジャーデビューアルバムなんだよね。個人的には『鉄の誉れ』が好きかも」

 しばし、不安になるほどのができた。

「……え、大丈夫?」

『袴田さん』

「はい」

『なんてお目が高い』

「え」

『俺も鉄の誉れがいちばん好きなんだ』

 好きなんだ。

 自分に向けられた言葉ではないのに、わたしの胸は勝手に高鳴り始めた。


 "愛を語る前にその窓を開けろ

 両目を見開いて 足を踏んばって

 世界を語るんだ 自分の言葉で

 So, just break through the darkness


 恋に落ちる前にその窓を開けろ

 風に吹かれながら 胸を焦がしながら

 世界を紡ぐんだ 自分の力で

 So, just break through the darkness"

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