第3話
『彩。あたし、本気だよ。ずっと彩が好きだった。今も好き』
知らなかった。全く気づかなかった。そもそも想定してすらいなかった。同性愛者の存在は知っている。だけど、彼女がそうである可能性なんて考えたことはなかった。いや、私が好きというだけで、バイセクシャルという可能性もあるけども。
「……彩子」
私の名前を呼ぶ熱っぽい声が、割れ物を扱うような優しい手つきが、優しいキスが、さっきの告白が嘘では無いことを証明する。
こんなに優しく愛撫されるのは初めてだ。今までの彼はみんな、いつも自分本位だった。自分が終わったら終わり。私は最後までいけたことはない。その不満をぶつけたら逆ギレされ、拗ねられて、それが原因で別れてしまったことがあった。それ以来言わないようにしてきた。
痛くても我慢して、気持ち良くなくても演技をして、したくないこともして、相手を喜ばせたくて頑張った。痛いとか、気持ちよくないなんて言ったらプライドを傷つけてしまうから、私が我慢すれば良い。ずっとそう思っていた。
こんなにも気持ちいいと感じるのは初めてだ。私が今までしていた行為は一体なんだったのだろう。
「彩……大丈夫?やめる?」
彼女はふと手を止めて、私の涙を拭って、心配そうに首を傾げる。
「違うの……嫌じゃないし、痛くもないし、勝手に声出るし……こんなの初めてで……」
「え。なにそれ。今まで痛いの我慢してしてたの?」
「だって……痛いなんて言ったら傷つけちゃうから」
「お馬鹿! ちゃんと言わなきゃ駄目でしょうが!」
「……初めての時、それが別れるきっかけになっちゃったから……」
「別れて正解だよそんなクズ! もー……あんたってほんと……」
はぁ……とため息を吐く彼女。しまった。こんな時に過去の男の話なんてすべきじゃなかったか。
「ご、ごめん……ムードぶち壊しちゃって……」
「……ううん。良い。ねぇ彩。あたしは我慢なんてしてほしくないからね。ちゃんと気持ち良くなってほしい。あたしに触れられて、幸せ感じてほしい。好きだよ彩子。愛してる」
ストレートな愛の言葉が胸に刺さる。
『そのままで良いよ。彩は』
さっき言ったその言葉も気休めではなく、本心だったんだとようやく理解した。
「美波……続けて。美波に触れられるの、嫌じゃないから」
「……うん。じゃあ、続けるね」
気付けば、彼に『太って魅力が無くなった』なんて暴言を吐かれたことなんてすっかり忘れて、彼女の愛に溺れていく。不思議だ。あんなに好きだったのに。あんなにショックだったのに。あれほど深く見えた傷は、彼女の優しい愛撫であっさり修復されていく。
私はその日、初めて人の手で絶頂に達した。
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