ABCmanic

ぽっかりと空いた穴、僕はそれを埋めたかった。


何処かから新しい土を持ってきても到底埋まりはしなかった。


誰かが言葉の魔法使いを連れてきた。その人は穴を一緒に埋めてくれるようだった。


だが、言葉の魔法使いが放つ魔法はただ穴を広げるだけだった。だから僕はそいつを何処かに追い返した。


僕は一人でぽっかりとした穴をどうにかして埋めるために魔法を使った。左手をかざすと赤い水が穴に勢いよく流された。徐々に赤い水は穴を満たしていき、同時に僕の心まで満たしてくれた。


ただ魔法の代償なのか、僕は少し疲れてしまった。


だけど、時間が経つにつれて穴を満たしていた赤い水は水位を下げていき、ついにはなくなってしまった。


僕は不安に駆り立てられ、穴を埋めようともう一度魔法を使った。


だが、赤い水は穴の半分も満たさなかった。


焦り始めた僕は二度三度魔法を使い、赤い水で穴を満たした。


強い疲れが僕を襲った。意識が朦朧とする。


そんな中、僕に似ている男と女が現れた。

男は穴をさらに広げ、女は僕から魔法の力を奪ってしまった。


彼らが去ったあと、僕は穴の前でうなだれていた。


魔法が使えなければ穴を埋めることができない。


半ば絶望していた僕の肩を誰かが叩いた。僕は重い頭をそちらに向けると友人がシャベルを持ってこう言った。


   お前と一緒に穴を埋めてやるよ!


僕は嬉しかった。彼とならこの穴は埋まるかもしれない、そう思って僕もシャベルを持って立ち上がった。


だが、僕らがどんなに頑張ってもその穴は埋まらなかった。


友人が去ったあと、僕は叫んだ。


       どうしてだよ!


でも、僕の叫び声は穴に反響するだけでなにも起きなかった。


僕は全てを諦め、終わりにしようとして穴に飛び込んだ。


その時、僕自身によって穴が埋まっていくのを感じた。そして、穴の底に身体が衝突したのを知覚すると僕は気を失った。


真っ暗な空間でふと目を覚ますと、人の体調ほど大きい鎌を持った男が僕を見つめているとこに気がついた。


男が僕が目覚めたことを確認すると


      こっちに来るんだ


と、一言だけ言って暗闇の中を進んでいった。


僕は男の言葉通りついていくと男が赤い鳥居に入っていくところが見えた。


赤い鳥居の内側から、男は僕を手招きしている。


僕は自らの意思でその鳥居のなかに向かおうとしたとき、ワンワンと耳障りな犬の鳴き声が聞こえた。


徐々に近づくその声に恐怖を覚え、僕は急いで鳥居のなかに逃げ込もうとするが間に合わず、巨大な白い犬に身体を咥えられてしまった。


巨大な白い犬は暗闇の中を鳥居の逆方向に走り出してしまった。


巨大な白い犬に身体を咥えられながらも、辺りを見回すと暗い空間が少しずつ明るくなってきていることに気がついた。


辺りが明かりに包まれた頃、巨大な白い犬は不意に僕を地面に落とした。


この隙にあの鳥居まで僕は戻ろうとしたが、僕の周りを小さい白い犬が取り囲んでいることに気付いた。


僕は暴れ、どうにかしてあの鳥居まで戻ろうとした。


だが、白い犬達はしぶとかった。ある一匹の白い犬が何処からか縄を取り出して僕を拘束した。


犬は身動きの取れない僕を鉄格子に閉じ込め、何処かへ去っていった。


僕は虚しく、瞳に涙を浮かべていた。


霞ゆく視界のなか、ふと鉄格子の外側に何か見えた。


とてつもない不安感が僕を襲った。


目蓋を擦り、涙で霞んでいた視界を戻すとそれがはっきり見えた。


鉄格子の外側にあの穴が空いていたのだ。


僕自身で埋めたはずなのに穴は結局存在していた。穴を知覚した僕は、どうやっても穴を埋めることができなかった現実に絶望し、鉄格子の中で発狂した。


鉄格子の外から白い犬が急に入ってきて、僕にあめ玉を強制的に舐めさせた。


僕の発狂は収まったものの、鉄格子のそとの穴は埋まりはしなかった。



ぽっかりと空いた穴、僕はそれを埋めたかった。


でも、どうしても埋まらなかった。

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