第136話 「思わぬ出会い」

(蒼汰)

 俺達はまさに夏のイメージに合う駄菓子屋さんを、色々な角度から写真を撮っていた。


 俺が道にうつ伏せになりながら写真を撮っていると、後ろから声を掛けられた。

 振り向くと制服姿の女の子が二人立っていた。


「こんな所で、何をしているんですか?」


 いきなり女の子に話しかけられて驚いたが、変質者を見る様な感じでは無かったので安心した。

 俺は直ぐに起ち上がって「夏っぽい駄菓子屋の写真を撮っています」とそのまま説明した。


「どうして?」


 女の子達が不思議そうな顔をしていた。

 俺は理由をちょっと考えて、航を指さしながら答えた。


「あいつが、夏を探しに行くって言うから」


「!?」


 女の子達は何がそんなに面白かったのか、二人で肩を叩き合いながら、息切れするほど笑っていた。


「なにそれー」


 女の子達は笑い過ぎて涙目になっていた。

 笑い声が聞こえたのか、航と龍之介も傍に来た。

 出だしの笑いが良かったのか、直ぐに打ち解けて、五人でソーダアイスを食べながら話をした。

 二人は高校二年生で、部活の帰りだったらしい。

 セーラー服でスカートの裾も長く、如何にも真面目そうな女の子達だった。

 俺たちが探している景色を説明すると、イメージに合いそうな場所に案内してくれる事になった。

 女の子達は自転車だったから、もうそれだけで写真が撮れそうだったので、航がお願いして『夏に駄菓子屋でくつろぐ女の子』の写真を撮らせて貰った。

 航はどうやら片方の女の子が気に入ったみたいで、片時も離れずに話をしていた。


 その後、俺らには見つける事が出来なかった小川やあぜ道、小さなバス停、木々に囲まれた神社などを案内して貰った。

 行った場所で女の子達にモデルになって貰い、『裸足で小川の水を蹴る女の子』、『神社の鳥居のまえに自転車を止めて話す女の子』、『田んぼ道を自転車を押しながら歩く女の子』など、夏空と田園風景のお蔭で、どの写真も夏っぽく撮れていて凄く良かった。

 こうして、俺たちの夏の写真がどんどん増えて行った。

 途中から女の子の写り込んだ写真しか無いのがあれだが……。


 最後に田舎の家を撮りたいと言うと、航と仲良くなった女の子の祖父母の家がイメージに合うかもという事で案内してくれた。

 行って見ると、塗壁の塀に囲まれた立派な和風の家で、敷地もかなり広かった。

 表札には『小谷』と書いてあり、農業を営んでいるらしくて、敷地内の倉庫に農機具が沢山並んでいる。

 直ぐ傍らに人懐っこい柴犬が繋がれていて、滅茶苦茶可愛いかった。


 写真を撮っていると、人の良さそうなお婆ちゃんが家から出て来て、家に上がって冷たいお茶でも飲んで行くように勧められた。

 お婆ちゃんが女の子の事を「あかねちゃん」と呼んでいた。航と仲良くなった女の子は茜ちゃんという名前らしい。

 茜ちゃんが友達の事を「ひろちゃん」って呼んでいたから、俺たちも茜ちゃんとひろちゃんと呼ぶことにした。

 家に上がるのは流石に遠慮しようと思ったら、航が茜ちゃんと一緒に入って行ってしまった。


 家に上がると、お茶どころではなく、素麺そうめんやら山菜料理やらヨモギ餅やらが立て続けに出て来て、話をしながら五人で楽しく過ごした。

 長居しては迷惑だろうと、おいとましようと思ったら、茜ちゃんのお母さんが、焼いた川魚や田楽でんがくを持って来てくれたので、失礼が無いように全部平らげた。


 茜ちゃんのお爺ちゃんの家は、縁側が広く風通しが良くて心地良い。

 くつろぎながら過ごしていると、お婆ちゃんの「これも食べてみなさい」攻勢が続き、結局長居してしまった。

 航は茜ちゃんと楽しそうに話をしていてとても嬉しそうだ。


 夕方になり、流石に帰らないといけないので、お暇しようと思ったら、俺たちが乗るべき最終電車はもう出た後だった。

 帰れなくなって焦っていたら、茜ちゃんのお爺ちゃんの「うちに泊まって行けば良い」の一言で、今日初めて会った方の家に泊めて頂く事になってしまった。


 龍之介は里見ちゃんに連絡をしながら、正座をして何度も頭を下げていた。

 俺は来栖さんに連絡をして、夕食を食べられなくなった事を謝った。

 通話中に茜ちゃんとひろちゃんの話す声が聴こえたらしく、「お、お、女の子と一緒なんですかー!」と何だか動揺していたけれど、何でだろう?


 その後、明日は美咲ちゃんと朝から遊びに行く約束をしていたので、メッセージに事情を書いて送ったら、直ぐに返信が来た。

 『えー 話がしたいから 直ぐに電話して欲しいなぁ』とか、恋人の様なメッセージが書いてあったので、ウキウキしながら家を出て、少し離れた場所で電話を掛けた。

 万が一、茜ちゃん達の声とか聞こえたら怪しいからね!


 電話を掛けると、メッセージのテンションとは逆に、美咲ちゃんは余り話さない。

 しかも、電話中に「周りが随分静かね?」って何度も言われ、やましい事は何もないのにドキドキする。

 「明日の戻り時間が分かったら直ぐに連絡する」と伝えたら、「ずっと待ってる」って言われた。やっぱり今から走って帰るわ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る