第43話 「早野先輩達のグループ」

(蒼汰)

 二人は翌日の昼休みにもやって来て、同じように楽しく話しをして帰って行った。

 三年生の有名人が二日続けて来た事が噂になったのか、廊下に他のクラスから見物人が来ていた。


 その翌日。俺がトイレから帰って来ると、今度は俺の席にも誰か座っていて三人になっていた。

 座っていたのは桐葉美麗先輩だ。一体何が起こっているんだ?

 桐葉先輩は俺が帰って来たことに気が付くと、振り向いて話しかけて来た。


「席借りてるわよ」


「え、ええ。構いません。ど、どうぞどうぞ」


 体操服姿も良かったが制服姿はもっと良かった。

 綺麗だなぁ桐葉先輩……。

 俺はとりあえず、近くの空いている席に座った。


「それとも、お姉さんのおひざに座る?」


 桐葉先輩は俺を見ながら膝を両手でポンポンしていた。


「え? いえ、そんな……」


 どちらかと言えば怖い印象の桐葉先輩だが、実は結構お茶目な人の様だ。

 騎馬戦の時の話がやっとに落ちた。

 魅力的なオファーだったが、もちろん冗談だろうし……。

 でも、ちょっと赤面してしまったかも知れない。


「まあ、お姉さま有難う」


 早野先輩が桐葉先輩の膝に座った。

 直ぐに床に落とされて、桐葉先輩に蹴られていた。

 早野先輩……ファン減りますよ。


 今週は毎日先輩たちがやって来て、話をして昼休みが終わると帰って行った。

 いつの間にか、その他の先輩達も来るようになり、それに連れて見物人も増えていった。

 応援団の団長達や、果ては生徒会の人までやって来た。

 もちろん俺らの所に来るというより、早野先輩達がここに来ているので、話をするために来るという感じだが、美咲ちゃんと俺の席の周りにはいつも人が集まる様になっていた。


 そして俺は、他のクラスの奴から声をかけられて、初めて先輩たちの目的が理解できた。


「お前ら早野先輩達のグループらしいな。良いなぁ、羨ましい」


 最初何を言われているのか分からなかったが、周りから見れば今の俺たちは確かにそんな風に見えるのかも知れない。

 そう言えば、あの三年生女子達も姿を見せなくなった。


 そうか、そういうことか!


 あの体育祭の後の事を、気にしてくれていたんだ。

 そういえばあの時、桐葉先輩がそんな事を言っていた気がする。

 うちの高校ではスクールカースト的な事で嫌な目に合う事は無いが、それでも『皆が集まる人気のグループ』、『普通の生徒のグループ』、『俺の様な気にもされない底辺グループ』といったくくりはある。


 勘違いとはいえ『人気グループ』に近づきたい人には、美咲ちゃんは生意気な下級生に見えたのだろう。

 でも、この数日間の先輩たちの訪問で、俺らは『人気のグループの一員』として認定されたらしい。


 後から聞いた話だが、以前同じような事で虐められて不登校になった生徒が居たらしく、今回は先輩たちが先手を打ってくれたそうだ。

 何て優しい先輩達だろう。

 あの三人が皆から好かれる理由が分かった気がする。


 まあ、俺の『人気グループ』入りは、美咲ちゃんのおこぼれなんだけどね……。

 それにこの立ち位置には不安しか感じない。

 俺も先輩達の様に成りたいが到底無理だし。そもそも俺の事は先輩達の眼中にも無いだろうしね。

 実際は『美咲ちゃんの席に近かった』というだけの事だし、早々に『底辺グループ』に戻るだけ……。

 俺はそんな風に思っていた。

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