可愛い蒼汰と先輩と

第42話 「え、え、冤罪です……」

(蒼汰)

 体育祭の翌日。お昼休みの教室が変な雰囲気になっていた。

 原因は、美咲ちゃんにケチを付けて来た例の三年生の女子達が教室の外にいるからだ。

 特に何かしてくるでも教室に入って来る訳でもないが、明らかに美咲ちゃんを見ている。

 いったい何が目的だ?

 まさか、また美咲ちゃんに何か文句を付けに来たのだろうか。

 俺はその場を離れたくなかったが、彩乃先生に提出物があったので、止む無く教室を後にした。


 しばらくして教室に戻ると、三年の女子達は居なくなっていた。

 まさか教室に入って、美咲ちゃんと揉めてたりしてないよな。

 慌てて教室に入ると、俺の机の上に誰か座っていた。

 前の席の椅子に、もう一人座っている。

 結衣と美咲ちゃんが、その二人と話していた。満面の笑顔で……。


 俺の机に座っていたのは、早野涼介先輩。

 前の椅子はもちろん望月快人先輩だ。

 なんだこりゃ。


「あ! あいつです!」


 結衣が俺を指さしている。

 二人が一斉に振り向いた。

 ねえ、結衣。何が「あいつ」なの?

 俺この後校舎裏にでも連れて行かれるの?


「お! ヒーローが帰って来た!」


 早野先輩が笑顔で手招きしている。

 屈託くったくのない素敵な笑顔。

 うらやましい……。


「君が噂の上条蒼汰君か。聞いたぞ。昨日倒れた美咲ちゃんを保健室に担いで運んだって」


「え?」


「今朝、保健医の青春大好き佐倉ちゃんから聞いたんだよ」


 なるほど、そういう事か。

 あの先生『青春大好き佐倉ちゃん』って呼ばれているのか……納得だ。


「羨ましいなぁ。俺がもう少しあの場に居たら、俺がヒーローになれたのに」


「いやいや、お前だと女の子が意識無くしたら、変な事するだろうが」


「人聞きが悪い。変な事はしない、介抱するだけだ」


「どんな介抱だか」


 二人でうひゃうひゃ笑っている。

 何だか凄く楽しそうだ。


「蒼汰くん。ちょっとこっちにおいで」


 呼ばれるままに早野先輩に近づくと、いきなり頭をわしゃわしゃと撫でられた。


「ありがとな。俺が美咲ちゃんの体調が悪い事に気が付かずに呼びつけてしまって。

 君が居なかったら大変な事になっていたかもしれない」


「い、いえ……」


 あれ、早野先輩凄く良い人じゃない?

 二人の先輩からめられて、少し有頂天になっていたら、結衣が会話に割り込んで来た。


「でもさぁ。蒼汰はコッソリ胸とか触ってない?」


 は? 結衣、何てことを……。

 美咲ちゃんが『え?』って顔してるじゃないか!

 その場にいる全員が俺を見ている。

 触りたいって思ったけれど、実行はしてないぞ。


「蒼汰! そうなのか? そうだったのか!」


 早野先輩が俺の両頬をつねりながら、顔を近づけてきた。

 一生懸命に顔を横に振りながら、無罪を主張したが聞き入れて貰えない。


「よし! どんな感じだったのか、後でコッソリ涼介お兄さんに聞かせてくれ!」


「快人お兄さんにもな!」


「え、え、冤罪です……」


 二人は大笑いして教室を出て行った。

 いったい何をしに来たのだろう……。

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