第27話 「赤いてんとう虫」

(美咲)

 遠足の日のアルバイトの帰り道、甘いものが凄く食べたくなって、帰りにコンビニでスイーツを買って帰った。

 流石に今日はヘトヘト。

 持ち帰った夕食とスイーツを食べて、ゆっくりとお風呂に入っていたら、お風呂で危うく寝落ちしてしまうところだった。

 お風呂から上がって、ひねった足首に湿布しっぷを貼り、ベッドに横になったら瞬時に意識がなくなった。


 翌朝、起きたら九時を過ぎていた。学校が有る日なら大変だけれど、今日は日曜日。蒼汰君の家のアルバイトもお休み。

 足がまだ痛いので、外出する気は起きなかったけれどど、家の事を色々とやっているうちに夕方になっていた。


 蒼汰君、今日はちゃんとご飯食べているかしら。ちょっと心配……。

 夕食を作っている時に、そんな事を考えていた。

 昨日三十歳とか何とか言われたから、本当に年上になった気分なのかな。

 こういうのを老婆心ろうばしんって言うのかな。うーん。ちょっと違うかな。


 洗い物を片付け、明日の学校の準備をして、お風呂で髪を洗っている時に『あ……』と思った。

 昨日、猛烈にスイーツが食べたくなったのはこれか……。

 女の子の日がやって来た。


 私は女の子の日が結構重い。正直何もしたくないし、話もあまりしたくない。

 けれど、学校を休むわけにもいかないし、アルバイトも休めない。

 これが続くかと思うと、うんざりする。

 しかも足も痛い。

 本当に何だか色々最悪。うー、イライラする。

 バイト中に蒼汰君の顔あまり見たくないな。お話しもちょっとしたくないな。

 そんなことを思う自分に、またちょっとイラっとする。

 うー、イライラする。

 何かにガジガジ噛みつきたい……。


 それから数日間バイト中に蒼汰君と殆ど話さなかった。

 申し訳無いけど仕方が無いの。ごめんなさい。

 しばらくして、また話す様になったけれど、学校での蒼汰君とはまるで別人。

 本当に不思議。

 足も治ったし、家の中も片付けが進んで綺麗になってきた。

 残すは蒼汰君のお部屋の掃除ね。

 うん!良い感じ。


 ----


 体育祭の練習とアルバイトの日々で、十月は飛ぶように過ぎて行った。

 そして体育祭の前日の朝に学校で事件が発生。

 ホームルームが終わった時に、結衣ちゃんが大失敗をしている事が分かったの。

 大失敗の話は私の他には誰も聴いて無かったみたいで良かった。

 この話は例え結衣ちゃんの仲良しといえども蒼汰君には聴かせられない。

 解決策を話し合う為に、取りあえずトイレに行く事にして。最近仲良くなった女の子達を引っ張っていった。

 こういう相談をするなら人数は多い方が良い。

 トイレで状況を話すと、その中の一人がこの危機を簡単に解決してくれた。


「ああ、わたしこの前使ったヌーブラをバックに入れっぱなしだわ。持って来るね」


 結衣ちゃん良かったね!

 これで事件は解決。一安心。


 午後は体育祭前の最後の練習。

 体操服に着替えると、結衣ちゃんは「うん。バッチリ!」と言いながら出て行った。

 昇降口で靴を履き替えていたら、外に蒼汰君がいた。

 靴紐くつひもを結んでいるみたい。

 先に出て行った結衣ちゃんが、蒼汰君とすれ違いざまに何か言っていた。

 本当に仲が良いわね。


 蒼汰くんは私が出て来たのには気が付かなかったみたい。

 何だか私の後ろの方を必死で見ている感じだった。

 どうかしたのかしら?

 でも、何となく私の胸を見ていた気もするけれど、普通あんなに胸をジッと見る?

 私の自意識過剰?


 そう思って自分の胸元を見てみると、赤いてんとう虫が止まっていた。

 何だこれを見ていたのか……言ってくれれば良いのにね。

 赤いてんとう虫は、指先に載せると直ぐに羽を広げてどこかへ行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る