第22話 「上条さんと蒼汰君」
(美咲)
遠足の後、彩乃先生に車で家まで送って頂いた。
「天野さん。あまり無理してはダメよ。色々あると思うけれど、困った事があったら相談しなさいね」
先生はマンションの前で私を降ろすと、そう言って帰って行った。
今の状況を隠さずに話せる相手がいるのは本当に心強い。
流石に家政婦の派遣先が上条君の家という事までは言えないけれど、色々と便宜を図ってくれる上に、心配までしてくれる先生に感謝。
今日は先生もジャージ姿だったから胸元は開いて無かったけれど、やはりジャージ越しでも分かる大したお胸だった。やっぱり大人の女性は凄いわね……。
そんな事を思いながら時計を見ると、もう十七時だった。
もちろん、今日もバイトに行く。
早く夕食の材料を買って蒼汰君の家に行かなきゃ。
あら、この言い方だと、私と蒼汰君はいけない関係みたいに思われるわね。
左足首を包帯でぐるぐる巻きにして固定した。
うん。少し足を引きずるけれど、なんとか普通に歩けそう。
さあ、急いで変装して行かなきゃ。
ソバカスメイクをして、おかっぱカツラを被って、ヘンテコ眼鏡をかけたら完成。
ふふ、大分手慣れて来たわね。
鏡に向かって笑顔!
やだ。やっぱり不気味な笑顔だわ……。
----
バス停から少し歩くと、いつも食材を買うスーパーがある。
只でさえ疲れる遠足だった上に、私の面倒までかけてしまったから、蒼汰君はきっと疲れているわね。家でへたり込んでいたらどうしよう。
うん。出来るだけ疲労回復効果の高い夕食にしなきゃ。
鶏肉を使ったおかずに、緑黄色野菜のお味噌汁、それに
うん!いい感じ。
結衣ちゃんと蒼汰君に迷惑もかけたけれど、優しくして貰って色々話もできた。
何だかちょっと嬉しい。
でも、あのふたりは本当に仲が良いわね。ちょっと羨ましいかも。
ふたりの掛け合いを思い出すと、何だか笑顔になっちゃう。
楽しい事を考えていたら、食材を選びながら無意識に鼻歌を歌っていたみたい。
気が付いたら周りから人が居なくなっていたわよ。
向こうの方で母親に抱きつきながら「怖い」って泣いている子どもは、もしかして私のせい? 怖がらせてごめんなさいね。
買物を急いで終わらせて、蒼汰君の家には何とか時間通りに到着できた。
スーパーからの道すがら、今日の蒼汰君との会話を思い出していた。
『……蒼汰って呼んで下さいましませ』
うふふ。何なのあの言葉。何度思い出しても面白いわ。
蒼汰君ってもしかして面白い人なのかな?
家では結構気さくに話してくれるし、学校で見せている姿とは意外と違うのかもね……。
そんな事を考えながら、蒼汰君の家に到着して、【上条】の表札を見た時に気が付いた。
危ない……仕事中に間違えて「蒼汰君」って呼んでしまいそう。
大変だ。気を付けなきゃ。
やっぱり「上条君」に戻そうかしら。
うーん。それも失礼かなぁ。
とにかく気を付けよう。
仕事の時と学校の時をしっかり使い分けよう。
上条さん。蒼汰君。上条さん。蒼汰君……。
家で上条さんと呼ぶときは、一度しっかり確認して呼ぶようにしよう。
ちゃんと出来るかしら……。
気持を落ち着かせて、玄関の鍵を開けた。
合鍵を渡されているので、最近は自分で鍵を開けて家に入っている。
人様の家の鍵を預かるのは緊張するけれど、お仕事だから仕方が無い。
絶対失くさない様に、自宅の鍵と一緒にキーホルダーに付けている。
廊下を歩くときに少し足を引きずるけれど、ゆっくり歩けば大丈夫。
いつも通りエプロンを付けて、夕食の準備からスタート。
シンクに遠足に使ったお弁当箱が置いてあった。
一緒に食べたから分かってはいるけれど、お残しは無しね!
お残しどころか、結衣ちゃんのお弁当の残りまで食べていたから、もう少し量が多い方が良いのかしら。後でそれとなく聞いてみよう。
そういえば、私が家に上がった時には、上条君は既に帰宅していて自室に
今日は珍しく上条君の部屋からドタバタ音がする。
掃除でもしているのかしら。言ってくれれば私がするのに。
それにわざわざ遠足で疲れている日にしなくても……。
上条君がいったい何をしているのか分からないけれど、私はまずはお食事の準備ね!
----
上条君のお父様からは、今日は帰りが遅くなると聞いている。
夕食が出来上がったので、お父様の食事にラップをかけて、食卓に上条君の分と一緒に並べる。
まあ、お父様が居る時でも一緒に食事をするように
階段の下から食事が出来た事を「上条さん」に伝えた。
疲れ切った顔をして降りて来るかと思ったら、満面の笑顔で部屋に入って来た。
「あっ! 来栖さん、こんばんはー!」
スキップをしそうな勢いで食卓にやって来たわ。
ちょっと待って、こんな元気な挨拶とかされたこと無いし……。
なに? どうしたの蒼汰君?
もしかして、熱中症で変になった?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます