第10話 「アルバイト」
(美咲)
口座凍結を知らされた電話の翌日から、学校帰りにアルバイトを探す事にした。
でも、探すタイミングが悪かったのか、なかなか見つからない。
時給が安いバイトであれば、求人が幾つか有るけれど、限られた時間での収入を計算すると、その程度では必要な生活費を稼ぐことは出来なかった。
お財布の中には、あと一万円程度しか残っていない。
いっそのこと、求人雑誌に載っていた高時給のお酒を提供する店で働こうかと思ったけれど、流石に高校生が働ける求人は無かった。
そんな時、買い物に行ったスーパーの張り紙に求人が載っていた。
『家政婦さん募集 時給千五百円以上(日払い可) 勤務時間応談 海辺の派遣社』
これだわ! 一日四時間くらい働かせて貰えるなら、十分生活できる。
連絡先を確認し、外に出て直ぐに電話を掛けた。
面接の日時と派遣登録に必要な書類について説明された。
でも、説明を全部聞き電話を切った後に、とんでもない事に気が付いた。
必要書類は
住民票は『来栖ひな』でしか取れない……。
色々考えたけれど、アルバイト先に本名が知れても多分問題はない。
学校の人達にバレなければ、母が
仕方が無いので本名で登録する事にした。
----
ところが、面接時にさらに問題が発生……。
面接した女性が履歴書の『音葉高等学校』を見て、自分の娘が通っていると言い出したのだ。
不味い。娘さんに確認されたら、名前が違う事がバレてしまう……。
色々聞いて来る相手に、口ごもりながら必死で解決策を考えた。
そしてある事を思い出した。
「私は
相手は少し考えて、意味が分かったようだ。
「あら、被服科なのね。それじゃ場所が全然違うから、分からないわね」
「申し訳ありません」
「あらあら、謝る様な事じゃないわ。こちらこそ、分からない事を色々聞いてごめんなさいね」
「いえ……」
何とか
それ以上の問題は起こらず順調に派遣の登録はできたけれど、自分の希望する時間帯は今のところ空きが無いとの事だった。
お金の余裕は無いけれど、空きが出るまでしばらく待つことにした。
なかなか上手く行かないものね……。
----
アルバイトについては、学校に許可を取らなければいけない。
禁止はしていないが、学校の監督責任もあるので勤め先を報告しなければいけなかった。
登録した翌日の放課後、
先生は入学前からの事も知っているので、色々理解を示してくれた。
被服科の件では爆笑された。
「生徒手帳、偽造してあげようか?」とか、笑いながら言われた。
先生、捕まるわよ……。
それは冗談として。先生からは家政婦という仕事上、派遣先での身の安全を十分注意するように言われた。大人しい髪型をして露出の少ない地味な服装で働く事を薦められた。
今日も大したお胸を露出してらっしゃる先生には言われたくないわ……。
そう思ったけれど、忠告は素直に受け止める事にした。
----
ここ数日、放課後は結衣ちゃんと上条君と一緒に委員会の仕事をしている。
私は結衣ちゃんとお話しをして、上条君は黙々と仕事をこなしてた。
「蒼汰も少しは話しなさいよ!」
結衣ちゃんに時々怒られていたけれど、
打合せで会話が必要な時でも、結衣ちゃんとはそれなりに話すけれど、私と話すときは殆ど会話にならなかった。
話すときも私と目を合わせることは無く、
そうかと思うと、時々ワンコの様な目でこっちを見ていて、目が合うと慌てて目を逸らす。
他にも視点は合っていないけれど、
嫌われている訳では無さそうだけど、良く分からない男の子だ。
まあ、顔と名前が一致する数少ないクラスメイトのひとりだし、そのうち少しはお話しできるようになれば良いかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます