2 賭け

 私が短剣を突き刺そうとして、皆様が私の名前を呼びますが、私の首には短剣の刃先は届いておらず、私の手はある侍女によって止められています。


「…ソフィア様、もう二度とこんなことをしないでいただけますか?」

「だって、あなたたち影が誰なのかしらないもの。ねえ、王城勤めの侍女であるニアさん?」

「…私の名前をどこで?」

「だって、私に仕えてくれる人やお城で働いてくれる人の名前はみんな覚えているわよ。当たり前じゃない?」

「だから、影のみんなはソフィア様に関わりたくないんですよ」

「?どうして?」

「ソフィア様は私たちのことをちゃんと見てくれますから。影だって知られたら、ソフィア様が私たちから離れるかも知れないじゃないですか。それを怖がっているんですよ」

「感謝しても、怖がることは何もないわよ。あなたたちの仕事は大変で辛くて、けれど、とても重要なことなのですから。申し訳ないくらいよ」


 影の仕事はとても辛いものだろう。いいえ、私が勝手に想像しているだけで、勝手に決めつけてはいけないということはわかっている。どちらにせよ、死と隣り合わせになることもあるだろう。私はぬくぬくとこの国で生活できていられるのは、彼女たち影のおかげでもあるのだ。そんな人たちをどうして怖がるのでしょうか?


「ソフィア様は…全く、それで、こんな真似までして、なんの御用でしょうか?」

「そうね、あなたはずっと私の護衛を?」

「いいえ、交代制です。ですが、ソフィア様の行動は影のなかで共有されています。第一王子が言っていたイジメをしていないことは証明できます」

「それはいいの。でも、もうあれに関わるのは限界だから、何をやってもいいと陛下と王妃様に伝えて、書類をもらえないかしら?」

「…何をやっても、とは?」

「念の為よ。私が耐えられなくなった時の保険ね」

「わかりました。伝えておきます」

「…やけに聞き分けがいいわね。あと、殿下以外にあの、えーと、メアリさん?にも監視を」

「はい。わかっております。彼女のことは以前から知っていますから」

「…そう。ならいいわ」


 ニアの返事に疑問を感じる。以前から知っているとは、今回のような問題を起こそすかもしれないと警戒していたから…よね?ですが、ここで言及しても無駄でしょうし、今はこの場を切り上げましょうか。


「先生、授業を潰してしまって申し訳ありませんでした」

「いいえ、ですが、もう二度とこんな危険な真似はしないでくださいね。ローズさん」

「ええ、考えておきますわ」


 クラスメイトたち全員にジーと見つめられますが、この賭けはそこまで危険だったのでしょうか?


 家に帰ってきて、制服姿のままベッドに横になります。はしたないと怒られてしまうかもしれませんが、今日だけは許して欲しいです。

 ニアに頼んだものはたぶん却下されるでしょう。私も怒りに任せて彼女に無茶を言ってしまいました。今度会った時に謝らないといけませんね。

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