第92話 「エルフ族とノースランド国」

 ベニ達一行は無事にノースランド国の王城へと辿り着いた。

 王と謁見する前に食事をと言う事で、豪華な食事が振舞われた。

 ここまで案内をしてくれた男女も一緒に食事を楽しんでいたが、所用が有るという事で離席してしまった。


 しばらくして、ベニ達は謁見の間へと案内された。

 ノースランド国の謁見の間は、今まで滞在してきた砦と変わらず質素で暖かさを重視した造りになっている。

 だが、床に敷き詰めてある絨毯じゅうたんや毛皮は一級品である事が見て取れた。


 謁見の間に王が現れると、ベニ達は儀礼上ひざまずいて王を迎えた。

 王は巨大な熊の毛皮を羽織はおり、その周りにはけものの毛皮を羽織った男達が居並んでいる。

 そして、白く美しい毛皮をまとった妃が、王のかたわらに佇んでいた。

 礼を執った後、顔を上げて王と妃を見たベニが、思わず立ち上がり大きな声を上げる。


「ラーザちゃん! ピッツさん!」


 ベニに指さされた二人が申し訳なさそうに顔を赤らめた。

 アルフェリオンがベニを抱きかかえるようにしながら、素早く口と手を押さえる。


「べ、ベニ様、お気付きでは無かったのですか?」


「ええっ? どういう事」


「砦や城の衛兵えいへい達のぎこちない受け答えとか、お二人への接し方で……」


「えっ、気が付かなかったのは私だけ? 嘘!」


 子どもの様に驚く可愛いベニを、その場に居る全員が微笑みながら見つめている。

 ベニを座らせながら、アルフェリオンは堪らなくなったのか、抱きかかえる腕に力を込めた。


「ベニ様。改めまして、私がピッツアで横に居るのが妃のラーザニアです。堅苦しい挨拶は無しで本題に入りましょう」


 ――――


「済まないね。この娘達を里に帰してあげたくてね」


 『不可侵の森』の通行を認める返答を伝えると、ベニ達はサキュバスを連れたアヤセという女を紹介された。

 見るからに艶っぽい衣装のサキュバス達を前にして、ベニがアルフェリオンを引きずって一番遠くへと連れて行く。


「あっはっは。お嬢ちゃん大丈夫だよ。サキュバスは人族にしか能力を発揮しないからね。まあ、そう言う事を他種族と出来ないわけでは無いけれどね……」


 アヤセが悪戯いたずらな笑いをたたえながら、ベニを覗き込むようにして話し掛けている。

 安心して良いのかどうなのか分からない返答に、ベニはアルフェリオンに後ろを向かせ、サキュバス達の熱い視線をさえぎった。

 ベニの初心うぶな対応に一同から笑みがこぼれる。


「アヤセ。ベニ様を困らせると森を通れなくなるぞ」


「はいはい。ピッツア王、この度の事は感謝致しております」


「私の方こそ、お主には感謝してもしきれぬ。出来る事があれば、何でもさせて貰うつもりだ」


「キュバス達と里の保護を約束してくれただけで、十分すぎる程だよ」


「エルフ族からの協力を仰ぐことが出来た。セイホーウ国で危険にさらされている里の者を遠慮なく連れて来てくれ。ただし商売の方は、我が国を破綻はたんさせない程度に頼むぞ」


「お世話になっているピッツア王からお金は取れませんから、商売あがったりでございます!」


「あ、アヤセ! ラーザニアがにらんでおるではないか。止めてくれ」


 気さくな王とアヤセの会話に一同から笑いが起こる。

 笑いに釣られて振り向こうとしたアルフェリオンは、ベニに睨まれ、また後ろを向く。

 そんな二人をエレンミアが優しく微笑みながら見つめていた。


 ――――


「まさか生きている間に、『うるわしきエルフの都』を見られるとは思わなかったね」


 エルフ族の者が手綱たづなを握る馬の背でアヤセがつぶやいた。

 ベニやエレンミアと共に、ピッツアとラーザニアを乗せた馬も駆けている。


「ピッツア王には我々の訪問中に歓待頂きました。エルフ族は礼を失する種族と思われては困りますので」


 馬で移動しながら、小さな呟き声を聞き逃さないエルフ族の聴覚には驚かされるが、この広大な森を守り続けてきた彼らにとっては普通の事なのだろう。


 ピッツアとラーザニアは『うるわしきエルフの都』へと招待された。

 人族がエルフの都へと招待されるなど、ここ数百年絶えてなかった事である。

 そして、この交流でつちかわれたエルフ族とノースランド国との絆は、この戦乱の趨勢すうせいに大きな影響を及ぼす事となる。




 それから幾月いくつきか経ったある日。突然武装したエルフ族が不可侵の森を出てセイホーウ国の地へと姿を現した。

 整然と騎馬を進めるエルフ族の戦士の数は一万を越えている。

 そしてその先頭には、白い装備を身に着け背中に大きな白い翼を広げたベニの姿があった……。



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