もうお前だけでいいじゃねえか

 火の明かりを頼りにダンジョンを進む。

 前衛はテラとキサラギ、中衛にはエーラとニーヤン、後衛には俺とアディだ。

 

 形としてはそれなりに立派な陣形ではあるが、チームとして上手く機能しているかはわからなかった。というのもテラとキサラギが基本的に敵モンスターをワンパンしていくのでパーティがチーム力を発揮する場面が訪れないのだ。


 うちのパーティは控えめに見ても戦力が高かった。


「父様、このパーティはS級なれますかね」

「なれる。頂点を目指すか」

「それはまた別の機会に」


 別名、白の狩人と呼ばれるS級冒険者。

 狩人クラスの実力者が複数集まればS級と同等の戦力になるのも必然だった。


 たいまつの明かりを掲げるだけの簡単な仕事をこなすこと7階層分進んで来た。

 ダンジョンは階層をくだるほど強力なモンスターが出現するようになるという。


 実際、エンカウントするモンスターは若干動きがはやくなってきている。

 前衛二人の対応力を越えるほどではないが。

 すこしずつ脅威度はあがっているように思えた。


 7階層以降は事前に仕入れたマップに載っていない領域となる。

 俺たちは決められた道を行くのではなく、本格的な捜索をはじめることになった。


「下層へ降りる階段を見つけるんだ。階段の場所は足を使って探すしかない。特別な魔道具があれば話は別だが」

「右へ行きましょう」

「アーク?」


 階層間階段をおりてすぐ分かれ道であった。

 俺は右を指差し、皆を先導する。


「俺の直観が囁いてます。階段はあっちです」

「兄さまの直観ならば信頼に値します、とキサラギは原理不明の非科学的能力を支持します」


 キサラギ以外は超直観の破壊力を認知していないので、懐疑的ではあったが、どのみち捜索の手がかりがあるわけでもないので、俺にルート選びを託してくれることになった。


「ここは右、いや左ですね」


 ついに完璧に道選択で数分で階層をくだる階段を発見した。

 アディ含めニーヤンらベテラン冒険者は困惑を表情にあらわした。


「アークには何が見えてるって言うんだよ」

「アディの息子は妙な才能ばかり持っているにゃ」

「お兄ちゃんはやっぱりすごい……」


 お兄ちゃんはエーラちゃんからついこぼれた言葉を聞き逃しません。

 これで少しはお兄ちゃんポイント回復したか?


 8階層でははじめてのトラップに遭遇した。


「今日は遭遇率が低めにゃあ。本当はもっと頻繁にあるものにゃ」

「マップが出回っているくらいだし、7階層までのトラップはだいたい踏み抜いたか、解除されてたんだろ」


 アディとニーヤンは話をしながら洞窟の壁に仕込まれた魔術の罠解除を試みる。

 夜空の瞳は魔力の流れをとらえる。

 魔術系の罠は俺には丸見えなため皆につたえようとしたが、それより先にニーヤンが「罠にゃ」とボソっとつぶやいたのだ。直観も魔眼もなしに察知するとは、なるほどプロの盗賊職なだけある。


 ただ気が付けても罠の解除自体にはやや時間がかかるらしい。

 飛び込むわけにもいかないので解除を待つ必要があるわけだが……。


「失礼、時間がないので」

「にゃにゃ?」

「待て待てアーク、危ないぞ」


 俺は杖先で魔術トラップの魔力が収束する点を突き、魔力を送り込んで暴発させる。以前、アーケストレス魔術王国にてノーラン・カンピオフォルクスの屋敷に侵入したことがあった。その時にもこうして高度な魔術罠を破壊したことがあるので、容量はすでに得ていたのだ。


「え? それで終わりか?」

「魔術罠が解除されてるにゃ……一瞬で? 一体どうやったにゃ」

「魔力を送って魔術式を砕いただけですよ。行きましょう」

「おい嘘だろ、もうお前だけでいいじゃねえか」

「だからそう言ったでしょう?」

「ぐっ、才能がありすぎる息子とは未だにモヤるものなのか……」

 

 アディには申し訳ないがいまは先を急いでいる。

 俺たちはそれぞれが役割を果たしながら(?)、とにかく足を止めずに階層をクリアしていった。

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