パワー・オブ・テクノロジー

 パワードスーツの開発に打ちこみつつ、さまざまな物を持つ日々が続く。

 ある夜、俺は呼び出されNew Horizon号へと足を運んだ。

 

 船では神妙な面持ちのアンナがとあっけからんとした表情のエレナが待っていた。

 数人の黒い外套に身をつつんだ者たちの姿もあった。

 狩人だろう。

 

「安心しなよ、彼らは狩人だよ、アーカムくん」

「でしょうね。結構な人数ですが何をしてるんですか?」

「端的に言ってセキュリティ強化、って感じかな。ここは重要な場所だからね、本当にね。狩人協会はアースのテクノロジーを知る必要があるんだ」


 敵を知ること。

 未知を既知に変えること。

 大切なことだ。


 ただ……


「なんだかまともなこと言いすぎて悪だくみしてるような気さえします」

「嫌だな、アーカムくん。私はアーカムくんに意地悪はするけど、悪い人間じゃないよ」

「で、狩人を呼んだと」

「そだね。時期に碩学らをここへ呼び込んで本格的な理解をはじめるつもりだよ。アーカムくんにはぜひとも残ってもらって碩学たちにアースのことをいろいろ指導して欲しんだけどね。本当にね」

「残念ですが、それはできません。忙しいので。それとも狩人協会は僕の家族のために狩人たちを派遣してくれるんですか?」

「派遣するんじゃない?」


 適当だな。

 本当に他人事だ。


「ほら、適材適所ってやつだよ。アーカムくんめっちゃ弱いじゃん? だからさもう現場に出ずに狩人協会を支える技術者のひとりになればいいと思うんだよね。本当にね」

「口だけはまともなことを言いますね。気遣いはできないようですが」

「気遣いじゃ怪物は殺せないからね」

「……。魅力的な提案です。いろいろ片付いたら考えさせてもらいます」

「残念だよね……真面目にさ、アーカムくんって大事なんだよ、協会にとって。どっか旅立って、旅先で死なれたりなんかしたら、狩人協会は大損失なんだ、アースの情報が失われるんだから」

「そう思ってるなら狩人を派遣してくださいよ」

「ふふ、まあ、真面目な話だけど派遣はできると思うよ」

「本当ですか?」

「うん。アーカムくんには重要な価値が生まれたからね。でもさ、今から動くんじゃ3カ月くらいは掛かるんじゃないかな」


 まあ、組織っていうのはそういう物か。

 だめだな。どう頑張ってもフットワークが重い。

 俺がいくしかない。


「それでアーカムくんさ、アンナのことゲオニエスに連れて行く気なんだっけ」

「その訊き方なんですか。嫌なことを言うつもりでしょう」

「うん。アンナちゃん連れてかないでくれる?」


 氷のように冷たい表情であっけからんと言った。

 アンナが神妙な顔してたのはこれか。


「狩人協会はアーカムくんの家族捜索に狩人を派遣しない。必然、アーカムくんは個人の裁量でゲオニエスに行くことになるよね。ってことは、相棒だろうと狩人を連れて行かれちゃ体裁が良くないんだよね。本当にね」


 俺とアンナがいっしょに行動したら、人としての行動と捉えられるってことか。

 それは俺を攻撃する種になる。

 意地悪なようだが、俺のための警告であるともとれる。


「でも、些細な問題だから、あたしが勝手についていったことにすればいいよ」

「なーに言っちゃってるのアンナちゃん。そんなことしたら気絶させちゃうかもね。お姉ちゃん、大好きな妹を傷つけたくないんだけどなぁ」

「本当に嫌な人」

「ひどい! アンナちゃんが悪口言った! お姉ちゃんかなしい!」


 これはダメだな。

 アンナの実力行使は通らない。

 エレナにして見れば妹を規約に抵触させないための行動なのだろう。

 言い方は悪いし、性格も悪いし、わざとこっちをイライラさせようとしているが、まあなんだろう、エレナにもひとつまみの善意はあるという訳だ。


「わかりました。アンナはクルクマに残ってください」

「そんな……」

「ここは将来的に狩人たちの部隊が駐留することになると思うので、彼らと一緒に要所になるこのエリアの防衛にまわってくれたら僕も安心できますから」

「アーカム……いいの?」

「信じてください。大丈夫ですよ。必ず戻ってきます」

「ありゃ? なんだかやけに聞き分けがいいね。アーカムくんってアンナがいなかったら弱くて何もできないから、泣きついてでもアンナちゃんを連れていかせてくれって言うかと思ったのに~」


 エレナはいたずらな顔で俺の頭をぽんぽん叩いてくる。

 腹が立つが、ここで怒れば向こうの思うつぼだ。

 我慢我慢。俺は我慢強い子だ。そうだろうアーカム・アルドレア。


「あぁ、そうだ、エレナさん、さっきちょうど良い物が完成したんですよ。よかったら見ていってください」

「良い物?」

「はい、ぜひ見てもらいたいです」

「……ふむ、そう言えばここ数日ずっとなにか作業してたみたいだけど……うん、いいよ、面白そうだからついていってあげるよ」


 エレナとアンナに数人の狩人たちを連れて「どうぞ皆さん、見学して言ってください」とすっかり工房化した拠点を見せる。

 拠点には船中の灯りが集めているので、船内で最も明るい部屋となっている。


 皆が部屋の様相に目を丸くしているうちに俺は奥へいき、キサラギのもとへ。


「キサラギ、Type.11を」

「なにかワクワクするイベントがはじまったとキサラギは目を輝かせます」

「やたら手強いメスガキをわからせる時が来ました」


 耳打ちするとキサラギはうなづき、作業台にかけてある布を取りはらった。

 現れたのは人間の腕の形状をした機械の腕と足である。

 あとからやってきた皆の視線が集まり、狩人らから怪訝な声が漏れる。


「また妙なものを……アーカムくん、それは?」

「マナスーツというものをご存じですか。ああ、知りませんよね。答えなくて結構。”体感”すればわかりますよ」


 キサラギに手伝ってもらいながら俺はスーツを右腕と右胸、腰と右足に装着していく。まだ全身は出来ていないので足りない革製のベルトで身体に固定し、俺の心臓のうえのリアクターとスーツを接続する。

 

「超粒子動力炉が装備者の体内魔力をエンジンとし、マナスーツ繫ぐことで稼働します」

「さっきから何言ってるか全然わからないし、すこし恐いんだけど、アーカムくん……」

「僕の新しいフルプレートアーマーだと思ってください。エレナさんが僕のことを弱い弱い言うので作ってみました。でも怪物に本当に通用するかはわかりません。怪物との戦闘経験が豊富な狩人に監修してもらったら完成度はあがると思うんですけど。どうでうですか、すこしデモンストレーションにお付き合いいただけますか」

「やめておこうかな」

「恐いんですか?」

「そんな安い挑発に私が乗ると思っているのかな、アーカムくん」

「まあ別に恐いならいいですよ」


 エレナはスッと目を細める。

 それまでの飄々とした態度からは一変して今はとても冷たい。


 俺は気づいてない風を装って笑顔で近づいて腕をふりかぶった。

 エレナは眉根をひそめてサっと掌を出して俺の拳を受け止めようとする。


 内心でほくそ笑みながら、超粒子動力炉を熱く滾らせ、パワードスーツの出力を全開にした。俺が幼き日より進化させてきた膨大な魔力量を惜しみなくぶちこむと、リアクターはニトロを叩きこまれた改造エンジンごとくうなり声をあげた。


 硬いマナニウム合金の拳がエレナの手の突き刺す。

 接触と同時に目を見開いて驚愕をする彼女。

 夜空の眼には見えた。その顔が見えて満足だ。

 

 そうだろう。

 考えもおよばないことだ。

 あんたにとっては俺を殺すなんて赤子の手をひねるより簡単なんだから。

 5歳児がふざけて殴りかかってきたのを相手する程度にしか思わない。

 このアーマーだって金属鎧の延長線とでも思ったか?

 火薬で鉛を飛ばして驚いてるようじゃ想像もできない。


「これは──っ」


 拳を受け、エレナの身体がふわっと浮いた。

 彼女はスコーンっと弾かれ、吹っ飛び、壁へ勢いよく激突。そのせいで天井が崩れ、騒音を立てて粉塵が舞いあがった。


 工房のなかが静まりかえる。

 皆の視線は瓦礫に埋まったエレナへ、そのあと俺へ戻ってくる。

 誰も喋らない室内では超粒子動力炉のンゥゥ──という作動音が延々と響いていた。

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