ドレディヌスへの道中
俺とエヴァはラカル村を出発し、歩いてドレディヌスを目指した。
そこにたどり着けば、王族軍がいる。そして王もいるという。
エヴァとの旅はほとんどピクニックのように進行した。
キンドロ領はもともと出現するモンスターの脅威度がさほど高くないし、なにより数も多くはない。
たまに森から出てきたモンスターが行く手に立ちふさがったが、エヴァが剣で叩き切ってくれるので全然心配はいらない。
なお、彼女の剣は戦場に置いて来てしまったので、俺のアマゾディアを貸してあげている。
「遥か西、密林の部族長がふるう宝剣……恐ろしくよく斬れるわ。魔力の宿る刃、さほど剣圧をかけずに鎧圧層を中和できるわ」
エヴァはアマゾディアの性能がいたく気に入ったらしい。
新しいおもちゃをもらった子供のように、休憩のたびに剣をふりまわす。
どことなくアンナと似たものを感じる。あの子も暇あればブンブンしてるしね。
生粋の剣士というのは剣を振り回すことでしか摂取出来ない麻薬物質に侵されているのかもしれない。
夜になれば、野営をしいた。
「アークって本当にうちの子? なんでアディと私からアークみたいな大天才が生まれたのかしら」
「優秀な両親のおかげですよ」
「よしよし、ちゃんと言えて偉いわ~アークはママが大好きだものね~」
うりゅうりゅ~っと抱き着いて来て頭をなでなでしてくる。
鬱陶しいけど、冷たくするとやたら落ち込むのでされるがままにしておく。
「ママたちが冒険者だった頃は、火の魔術がなかったから野営も苦労したものだわ」
「父様は風の魔力をつかえるので、火種から焚火を起こすことができたのでは?」
「アディがそんな器用なことできるわけないでしょ。パパを馬鹿にしないの」
エヴァの方が馬鹿にしてませんか。大丈夫ですか。
「そろそろ煮えて来たわね。ご飯はママが作ってあげる」
エヴァが要領よくさっき倒したモンスター、ラビッテのお肉を入れて、テンタクルズたちからもらったいくつかの香辛料を加えていく。
野営の夕食にしてはやたら豪華な肉入りスープを食す。
この味付け……かつてを思いだす。
クルクマでいつも食べてた母親の飯。
異世界転移船のなかで食べた文明の利器でつくられた数々のインスタント食品との勝負で、全俺がおいしいと選んだ母の味だ。
アディもこれで胃袋を掴まれたのか。いや、あの人のほうからエヴァに惚れたんだったか。
「どう美味しいかしら」
「まあ……はい」
「はい、じゃわからないわ、美味しいって言って♪」
「……美味しいです」
「うれしいわ~」
母さんは求めてくるものが多くて大変だ。
母がニコニコ嬉しそうに見てくる中で、スープを飲み、パンで器についた汁にこすりつけるようにして最後の一滴まで綺麗に食べ終える。
話は次第にアディ達のことになっていく。
実はラカル村ではエヴァはアディ達のことを全然話してくれなかった。
ずっと「みんな大丈夫よ。無事だから」と繰り返すばかり。
声のトーンや、しきりにその話題を避けたがることから、なんかあったのはわかっているので、観念して話して欲しいのだが……。
「そうよね、アークには話さないといけないよね……」
エヴァはそう言って、静かに息を吐くと、俺がいない間アルドレア一家になにが起こったのかを話し始めた。
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