駆けつける
魔氷狙撃弾は空を切り、飛んでいき着弾。
目標から数メートルずれた。
相手を殺してもいい覚悟で撃ったのだが。
ぶっつけ本番にしては悪くないが、流石に無謀だった。
不幸中の幸いで、騎士一名のアーマーをかすめてはいた。
なので盛大に凍てつき咲いた氷華に、騎士たちの意識をそらすことができた。
俺はその隙に戦場を駆け抜ける。
狙撃弾を追加生成し、撃ちながら、まっすぐ向かっていく。
道中、炎の怪物が横から俺へめがけて走って来たので、そいつへ氷の砲弾を三発撃ち込んだ。命中するが氷は炎で気化してほどんどダメージが通らない。無詠唱の四式魔術では威力が足りないのか。
「ジュルグァ、アァ」
「お前に構ってる暇はない」
全身にめぐる魔力を手元に集中させ、最大の魔力をこめて、ウルト15発分の魔氷砲弾として現象化させ放った。無詠唱氷属性四式魔術だが、込めている魔力量を強引に強引に増やして威力を補強する。無詠唱になれすぎて通常の詠唱が遅いので、こうした方が手っ取り早い。
怪物はわずかに動きをとめ、危機感を感じたのか避けるような素振りを見せる。
だが、距離が近いこともあって、避けきれず、砲弾は首横から入り、胴体に穴を穿った。真正面からの入射角だったので体内で弾がとまったらしく、そのまま氷の華が肉を破って咲き誇り、怪物の身体は破裂するように飛散した。
怪物の体内に滞留していた火の魔力と氷の魔力が激しく反発しあい、それは物凄い爆発を誘発した。空気がひび割れるような轟音と共に、熱波に吹き飛ばされる。
その爆発は俺の全身を焼き、打撲させ、傷口を開かせた。
だが、幸運なこともあった。
爆風は俺の身体をエヴァのいる森方面へと大きく吹き飛ばしたのだ。
血と肉と臓物がふる戦場を吹き飛ばされ、風の魔力を使いさらに跳躍、滑空する。
ついに俺は自分の魔術の有効射程に騎士たちをとらえた。
向こうも俺の存在に気がついた。
最速で放てるもっとも慣れた魔術。
騎馬にまたがった老齢の婆がこそっと口元を動かし、中杖を向けてきた。
地面の土が収束していく。土属性だ。魔女は短剣を作り出すと、すぐさまこちらへ放ってくる。慣れている。詠唱込みなのに非常に速い。
だが、俺の方がそれよりもっとはやい。
飛んできた短剣を風の盾で弾き、続く二発目の風弾で魔女をふっとばす。
「ッ、なんだい、その速さは──!?」
魔女は馬上よりおおきく吹っ飛び、ぬかるんだ泥のなかを転がった。
エヴァの傍らに着地した。騎士たちに囲まれた真ん中へ降り立つと、すぐに騎士らは俺へ標的を変え、剣先を向けて来た。
空中で何人か仕留め、残る人数は4人。
斬りかかってくる騎士を風で撃ち抜いて吹っ飛ばす。
「こいつ速いぞ……ッ」
「まるで詠唱していないみたいだ」
「怖気づくな、相手は魔術師ひとりだ」
「僕はあなた達と争うつもりはありません。王族軍の負けは確定している。これ以上、戦う理由はないでしょう?」
「馬鹿か、このガキ、女は戦争の褒美だろうが、いくらあっても困らねえんだよ」
「マジック様はああいったが、こんな綺麗な女だ、ただ殺すにはもったいねえ」
「戦場に女がでてくるのがわりい」
「俺たち何か変なこといってかよ」
「……あんたたちだって平時はもっとまともだろうに」
騎士ら間合いを慎重に図る。
俺の正面の騎士がめくばせする。
背後から斬りかかって来る気配を察知
ひと振り避けてしゃがみながら泥を削るように足払いし、体勢を崩させ転ばせ、ヘルメットのうえから風の弾丸を撃ち込む。
金属製のヘルムをひしゃげさせる威力だ。強烈な脳震盪を起させた。
しばらくは動けないだろう。
「てめえ!」
「いっきに掛かれ! こいつ場慣れしてる!」
左右から斬りかかって来る騎士のうち、右側のひとりを早々に撃ち飛ばし、左側の剣を避け、手首をつかむ。
正面の騎士もつっこんできた。
俺は手首をつかんでいた騎士を柔術を用いてぶん投げ、正面の騎士へぶつける。
もみくちゃになって倒れたところへ、飛び込むように覆いかぶさり、金属ヘルムに杖先を押し当てた。
「ッ、や、やめッ!」
バゴンッバゴンッ!
2回の炸裂音。2回の金属の歪む音と火花。
ヘルムがふたつへこみ、騎士たちは痙攣して動かなくなった。
「あ……アーク……?」
雨にかき消されそうなか細い声を拾う。
ザァザァと降り荒む滝ような雨がしだいに強くなってきた。
俺はエヴァのもとに駆け寄り、いまにも泥に沈みそうになる体を抱いて持ち上げ「はい、僕です」と顔を近づけて返事をかえした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます