異端審問会
焼け焦げた悪魔の遺体をはさんでこちら側、フバルルトにマチルダ婆は目を丸くしていた。
遺体をはさんであちら側、ノーラン教授は杖をぬき、黒い魔力を圧縮すると、暗い結晶散弾を見舞って来た。
「ふざけるなッ、この凡骨どもがッ! 私はこんなところで終わる器ではないッ!」
「足掻くんじゃないよ、ノーラン、みっともない」
マチルダ婆は一歩前へ進み出ると、緑の結晶盾を展開し黒い散弾を防ぐと、ノーラン教授の足元から一本尖った結晶を突きあげた。
結晶はノーラン教授の足を貫き、床に縫い留める。
「うガアアああ!」
苦悶の表情をうかべながら、ノーラン教授は杖を手放さず、マチルダ婆へ攻撃しようとする。
そこへフバルルトはすかさず結晶槍を放ち、ノーラン教授の肘から先を吹っ飛ばしてしまった。
「うあああああ!?」
血を噴出し、ノーラン教授は悲鳴をあげ、傷口を押さえる。
たちまち限定空間を展開していた『箱』の魔術は解除された。
「ノーラン・カンピオフォルクス、あんたを闇の魔術師として身柄を拘束する。あんたたち、傷を縛って止血してやりな。こんなところで死なれちゃ困る」
マチルダ婆は騎士たちを指揮し、ノーラン教授を拘束させた。
悪徳の魔術師との戦いが終わった。
フバルルトはクールな面持ちを珍しく崩して、ため息をつき、モノクルを布で拭っている。
マチルダ婆は痛みに悶えるノーラン教授を見つめていた。
その背中はどこか寂し気だった。
──3日後
王都を騒がせた大事件の話題は都市中にひろがっていた。
すこし時間は経過したが、まだまだ話題は温かい。
今日はアーケストレス魔術王国が誇る司法の砦にて、闇の魔術師ノーラン・カンピオフォルクスの裁判が緊急的に開かれることになった。
俺は傍聴席にてコートニーさんとアンナ、キサラギらとともに裁判の行方を見届けた。
魔術王国の司法はとても発達しており、司法の”利権”を持つ大名家コスモオーダー家は、罪人の記憶を読み取り、解析することで、罪の所在を明らかにするという。
犯人の記憶を読み取れば、どんなに腕利きの弁護人を雇おうとも無駄なので、その正確性は限りなく完璧に近いのだろう。
なるほど。
流石は魔術の国。
これなら死に物狂いで裁判所へ連行されるのを抵抗するノーラン教授の気持ちもわかる。
コスモオーダー家によって記憶を読み取られれば、ゲームエンドなのだから。
ノーラン教授は当たり前のように極刑に処された。
執行猶予はなく刑は1か月後に執行されると言う。
魔術王国でのとりわけ有力な魔術貴族名家25家に名を連ねようとしていたカンピオフォルクス家のスキャンダルは、大きな衝撃となった。
同時にいかなる人物がカンピオフォルクス家の闇を暴いたのかも市民の興味の的となった。
とはいえ、フバルルトにも、マチルダ婆にも俺の名前は一切出さないように伝えてあるので、俺が魔術貴族を陥れた危険人物だとは、誰にも周知されないだろう。
そんなことが知れ渡れば、よからぬ興味を引きかねない。
貴族の権力と戦うのはこりごりだ。
できるならば、これきりにしたいところである。
記憶司法裁判所での傍聴を終え、俺たちはその足でスラム街の巨大樹の宿屋へと向かった。
ゲンゼにいちはやく報告をしてあげたかった。
もう大丈夫だよ、と。
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