大会のお手伝いに来ました
コートニーさんを木剣で殴り飛ばした翌日。
俺は朝早くから出かけていた。
魔球列車には仕事にでかける大人と、ドラゴンクランへ向かうのだろうか、年若い者たちがちらほらと見受けられる。
懐中時計を取り出し時刻を確認。
盤上の針は午前7時を示している。
この世界の1日が30時間あり、午前が15時間あることを顧みれば、ただいまの時刻は、地球の感覚で午前5時くらいのイメージだろうか。
町を歩いても人は少く、列車に乗ってようやく密度を感じる。
この場にいるだけでどこか特別な非日常に迷い込んだ気になる。
自分以外の多くの人間はまだ覚醒を知らず、ふとんのなかでぬくぬくとしているのだ。
ゆえに俺は早朝というものが好きだ。
街並みを眺めているとあっという間に3段層にたどりついた。
降りて道なり歩く。
知らない道だし、来たことのない場所だが、あの学生たちについていけばたぶん大丈夫だろう。
しばらく後。
通りの奥にやばいものが見えて来た。
すごいではない。やばい、だ。
その建築を一言で表すなら天元突破、超巨大時空要塞といったところだろうか。
とにかくデカい。
ほかの建物群とはスケールが違い、その建物だけ巨人の手によって建造されたかと見間違うほどの、赤茶けた城がそびえ立っているのだ。
そのサイズは段層間をへだてる200m近くの絶壁よりも大きく、城が3段層に建っているのに、その上層部は4段層を越えてしまっている。
城にそなわる高塔の多くは絶壁より背が高く、目測400m級の塔もいくつもある。
たとえその建物がなにか知らずとも、この王都、ひいてはアーケストレス魔術王国において大きな意味を持つ場所だと言うのは、どんな愚かな頭をもっていても理解できるだろう。
もっとも俺は知っているが。
学生たちのあとについていき、赤茶けた城の敷地へ。
門をくぐれば、広大な庭をつっきる一本道がある。
苔むした花壇と経年劣化でいたんだ石レンガの道が、積み重なった時間をいまに伝えている。
真昼間だというのに、古びた城門に埃臭さ感じ、エントランスへ足を踏み入れる。
さて、学生の案内もここまでだ。
事務室っぽいところを見つけたので話を聞こう。
「失礼します。クエストのために来たのですが。中庭へはどうやって行けばいいか教えていただけますか」
「どちらの依頼か確認をさせていただいてもよろしいですか」
俺は冒険者ギルドから発行された依頼書を見せる。
事務員はいくつかのリストを眺めて「ああ、月間決闘大会の」と納得した顔になる。
「通路を右へ進みますと左手に見えてきます。運営の生徒さんたちはもういると思いますよ。それと校舎のなかでは冒険者メダリオンを見えるところにつけておいてください。それは外部の人間であることの証明になりますので」
Cランクのメダリオンを外套の胸元につける。
もっとカッコいいの付けたいなぁ、などと漠然と思う。
人に見られるとなると、やっぱりCではそこまで恰好付かない。
「ご親切にどうも」
一言礼をつげ、言われた通りに進む。
朝の静けさがしんみりとした
俺の靴音だけがカツカツと響く。
右手に窓を発見。
ガラスは嵌ってはない。
うっかり身を乗り出せばそのまま転落する吹き抜けの窓だ。
もっとも1階なので落ちるも何もないが。
顔をのぞけば広大な中庭がひろがっていた。
一面が緑色の芝で生い茂っており、魔法陣がいくつも設置されている。
模様から察するに先日の『決闘魔法陣』というやつだろう。
中庭に降りてみることにした。
窓をひょいっと乗り越えて、芝を踏みしめる。
ここに依頼主がいるというが。
む、向こうのほうに数人の生徒らしき人影を発見。
近くに机と椅子のようなものがあり、テントが設営されている。
大会運営という色眼鏡を通して見れば、なるほど、あそこに俺の依頼主がいると確信できた。
「あら。まさかこんなところでそのいけ好かない田舎顔を見ることになるとは思わなかったわ」
こ、この声は……。
なんでこんなところに。
いや、まあ、ここの学生だったな。
「おはようございます、コートニーさん。昨日さんざん木剣で殴られて泣いてましたけど、今朝はずいぶん調子を取り戻したみたいですね──」
向こうがあいさつ代わりのジャブを打ってきたので俺も小パンで応じる。
が、
「大地よ、大いなる力の片鱗を覚ませ
──《グランデ》」
コートニーさん、無言の抜杖から高速詠唱で土属性一式魔術を行使。
足元から素材を集め、
基礎詠唱は『集積』『発射』。形状を整えるため、すこし『操作』も入ってるか。
剣気圧があれば拳で叩き落としてもいいが、あいにくと俺に圧はない。
アマゾディアを抜剣し、素早く刃をあわせる。
ガヂンッ! と火花が激しく散った。
岩石弾は岩石弾でも金属質をふくんだ高度な岩魔術だ。
凶悪な形状の岩石弾を両断、破片は俺の後方へ飛んでいく。
圧がなくてもバターのように岩を斬れた。
ジュブウバリ族の宝剣じゃないナマクラでは、剣が折れているところだ。
ほっと一息をついて剣を鞘に収める。
顔上げると、テントの近くにいた生徒たちが唖然としてこちらを見てきていた。
「クラーク様の岩石弾を……っ!」
「嘘だろ! 鋼と変わらない硬度って話なのに!」
「剣豪だ! 本物の剣士ってすげえ!」
学生たちには剣をふりまわす人間は珍しく移ったようだ。
沸き立つ運営の生徒たちを見て、コートニーさんの不機嫌が加速する。
なんか喋っただけで二発目が飛んできそうだけど、ここは勇気を出さねばなるまい。
「こほん。あのコートニーさん、どうして僕はいま殺されかけたんですか」
「ふん。まあいいわ」
「いや、僕はよくないんですよ」
「そんなに知りたいの」
「もちろんですよ」
「そう。じゃあ、どうして殺されかけたか。明日までに考えておくといいわ」
「……もういいですよ。とりあえず今のも勝敗にカウントしときますね。これで僕の4戦4勝ということで」
「まだ2勝をあげただけでしょ。インチキをしてサバ読むのは許さないわ」
どっちがサバ読んでんですかねェ。
「それよりも、どうしてなの。どうしてよりによってアルドレア君が来てしまうわけ。ああ、いけない、頭痛がしてきたわ」
コートニーさんはムスッとして肘を抱き、額にそっと手をあてる。
どうして俺が来てしまう……? どういう意味だ?
あ。まさか……まさかとは思うけど、クエストの雇い主ってこの人のことじゃないですよね。ねえ超直観くん?
『正解ッ! コートニー・クラークこそが依頼主で間違いないぞ、アーカムッ!』
らしいです。
ああ、なんということでしょう!
数ある以来の中から、よりにもよって!
コートニーさんの依頼かぁ。
本当に大会運営のお手伝いだけで終わるのかなぁ。
非常に、それは非常に、おおきな疑念が俺のなかで育ちつつあった。
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