超能力者の預り所



 氷属性四式魔術で封印した超能力者の女を解放される。

 カイロが分厚い氷に手を触れた途端、パキパキと音を立てて氷が砕けはじめた。


 同時にアンナが動いた。

 氷の薄膜に覆われたままの女の首を鋭い一太刀でぶった斬ったのだ。

 アーカムは分離した頭を《アルト・ウィンダ》で撃ち砕き、肉片にまで細かくする。

 ごく淡々と行われる解体作業だ。


(この女は頭を斬り離しただけじゃ動けるみたいだからな)


 完全に破壊して、ようやく『災害封じの鉄棺アイアンコフィン』による封印を実行できるようになった。


 かくして超能力者を封印した石棺が3つできあがる。


「これで開拓者たちが復活することはないのか? わん」

「大丈夫なはずです」

「うーん、なんだか不安だわん。この棺のうえから氷でがちがちにした方が……」

「氷に浸すのは逆によくないかもしれません。『災害封じの鉄棺アイアンコフィン』は超能力者自身の架空機関を利用して僕の能力を持続させてるので、ごく低温下にさらされ続けるとそれが途切れちゃうかもしれません」


 超能力者たちの石棺は大祭壇に保管されることになった。

 気温は低いが、マナニウムにはほとんど影響ないレベルだ。

 それよりも外敵から隔離された空間というのが大事だった。

 大切なモノの保管場所として異空間というのは安心感が強い。


 天井を見上げれば聖獣フェンロレン・カトレアが張り付いている。

 いつもの場所に微動だにせず。


「預けましたからね。よろしくお願いしますよ」


 アーカムはそういって棺の保管を託した。



 ───


 

 アーカムたちは無事に超能力者たちを退けることに成功した。

 同時にカイロ・カトレアのたちの聖獣を守るという目標も達成した。


 しかし、多くの謎は残った。


 超能力者、荒垣シェパードが封印されたことで黒い巨人たち50機はクリスト・カトレアの外壁のうえに不時着、のちに活動を停止してしまった。

 都市を覆っていた結界は解除されたが、巨人たちはいかなる存在なのか、市街地にいきなり巨穴を穿った光の柱はなんだったのか、光を放ったあと市街地で沈黙する10機の黒い巨人たちはいつか目覚めるのか。


 そのどれもが誰にもわからないままであった。


 アーカムとアンナは無事に地上へ戻って来た。

 地上では穴のまわりに大変なやじ馬ができていた。


 カイロは狼フォルムである。古代より秘匿されるてきた王家の姫なので、正体を常人に知られるわけにはいかないのだ。狼の姿でアーカムとアンナを地上へ送り届けて、付き添いとしていっしょにいた。このあとはすぐに王城に戻るつもりである。

 

「カイロさん、この穴、大丈夫なんですか? 聖獣のいる領域に直通とはいかないまでもかなり核心に近い部分まで繋がってたような気がしますけど」

「問題ない。すべては聖獣が隠匿する。神秘とは隠されてこそ、だ。わん」


 アーカムは穴をおそるおそるのぞき込む。

 すると、底の方からブワーッと凄まじい勢いで氷がせりあがってきているのが見えた。

 穴から離れると、そこから氷の柱が天高く伸びていった。

 まるで大地に突き立てられた墓標のようなたたずまいである。


(なんて質量の氷だよ……え? こんなことできるなら聖獣さん自分で戦えば余裕だったんじゃ……)


「聖獣は神だ。人間ごときの争いの天秤を傾けることはしないわん」

「はあ、そういうものですか」

「そういうものだ」

「ねえ、わんわん」

「……なんだ、アンナ・エースカロリ。…………わん」


(どんなに我慢しても、わんって最後についちゃうんだな、カイロさん)


 アーカムは微笑ましい気持ちになる。


「黒くてデカいやつってえろじじいが操ってたみたいだけど」


(その言い方はちょっと卑猥に聞こえる気がします、アンナさん)


「あれってなんなの」


 アンナはカイロに尋ねる。


「知らない。フェンロレン・カトレアなら知っているだろうが、そんな気軽におしゃべりできたら苦労ないわん」

「ふーん。あっそ。……使えないわんわん」


 アーカムは2人の喧嘩を止めるため満身創痍になった。

 

 こうして超能力者の騒動はいったんの幕引きを得た。

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