セキュリティは万全


「手こずらせやがって」


 アーカムは再度『災害封じの鉄棺アイアンコフィン』を使って神宮寺を封印した。今回の材質は遺跡の石材である。

 いぜんより丈夫にできてはいるが、一度、脱走されたという事実はいかんともしがたいものであった。


(銀行ギルドに預けてても、突破されたってことだよな。自力での脱出は不可能だろうから、あのカテゴリー5の老人が解放したんだろうけど……)


「実際、杖抜くだけで封印解除されちゃうんだよなぁ……」


 さて、どうしたものか、とアーカムは思案する。

 将来的に『災害封じの鉄棺アイアンコフィン』の封印を簡単に解除されないように術式を改良する仕事はどこかで向き合わなくてはいけない。超能力者がはびこっているのならばなおさらだ。封印を解除されてしまってはキリがない。


「ん、ちいさな犬が。これはカイロさんの眷属かな?」

「わん!」

「でも、毛並みがちょっと違うな。カイロさんのわんちゃんより発光してるし……あ、もしかして、聖獣さんですか?」

「わん!」


 どうやら聖獣の使いがやってきたらしい。

 

(フェンロレン・カトレアの上澄みってやつなのかな)


「なにか言いたいことがあるんですか」

「わん!」

「あ、勝手に棺に触ったらだめですよ。封印が解除されたらどうするんですか」

「わん!」


 現在、神宮寺を封印した石棺には、使い捨て用の1等級の杖が刺さっている。  

 装備調達の段階でカイロに用意してもらったものだ。

 残る予備の杖は5本だ。


「わん!!」


 聖獣の上澄みが、てちてちと石棺によじ登り、ひときわ元気に吠えた。

 すると水路のいたるところから、淡く水色に発光する子犬たちが現れて、縄を石棺のまわりに通して、犬ぞりの要領でずるずるひきずって持って行ってしまった。


「聖獣さんが預かってくれるんですね。ありがとうございます」

「わん!」


 聖獣のもとに保管されるならセキュリティは万全であろう。

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