聖獣王家の姫



(第二形態です。まあボスならお馴染みだよね。それじゃあ、張り切って弱点の火属性の火力支援しますかねっと)


「もういい、貴様たちを認めてやろう……わん」


 フェンロレン・カトレアが変身したと思わしきその美しい少女は、自分の尻尾を抱きしめ、焦げて、ボサボサになってしまった箇所を丁寧にグルーミングしはじめた。

 哀愁漂う光景だ。

 アーカムはすこし申し訳ない気持ちになっていた。


「ぅぅ、我の毛並みを燃やしてくれるとは、本当に失礼な人間だ……わん」

「だって殺してみろって」

「うるさいわん」

 

(理不尽なやつだ。でも、ケモケモしてて、ゲンゼディーフ思い出すな。尻尾ふわふわしてるし。可愛すぎませんかね)

 

「アーカム、斬っていいの?」

「だめですよ。試練は終わったようです」

「魔力獣──解除……わん」


 少女の指輪が輝く。

 アンナが斬り伏せた狼たちが青白い魔力となって、少女のもとへ戻っていく。


 アーカムはその様をじーっと見て、魔力の流れを追っていた。


「貴様たちはどうやら使えそうだ、わん」

「なんで第二形態になったんですか」

「第二形態? こっちが元の姿だ。我は見ての通り人間だ、わん」


 どデカいオオカミフォルムの方が戦闘形態らしい。

 

 アーカムはふわりふわりと滑空して、天井の隙間から地上へ帰ってくる。

 アンナが着地を支えてやり、アーカムは再びお姫様抱っこされることになった。


(なんだろう。アンナの腕のなかすごく落ち着く。もしかしてママなのか。俺はバブみに覚醒したというのか?)


「貴様たち、そんなくっついて……我の前で色狂うことのないようにな。見てられず殺してしまうかもしれないわん」

「色狂うって?」

「アンナは気にしなくて大丈夫ですよ」

「教えてよ」

「えっちなことするなって話です」

「なんだ。それなら大丈夫、アーカムは紳士だから」


 アンナは少女の目をまっすぐに見て「ほらね」と豊かな胸をアーカムに押し付ける。

 

 表情ひとつ変えないアーカム。

 これだけ見ればアーカムが理性の怪物に見える。

 だが、真実は違う。舌を噛み切らんほどに歯を食いしばり正気を保っているのが真実だ。


「なるほど。ならいいわん」


(なにがいいの? なにもオッケーじゃないでっ。ッ?! おっぱいを触りたすぎて語尾がぱいに?! なんてことぱい!)


 イケメン知的クール系ゆえに、外面そとづらからは伺えないが、内心は恐ろしくしょうもないのが、このアーカム・アルドレアという男である。


「我の名はカイロ・カトレア。都市国家連合所属クリスト・カトレアの真の王家で、王の娘にあたるわん」

「真の王家ですか。では、偽の王家がいると」

「偽というわけではない。ただ、外の世界で都市を管理するために割り当てられた役人がいるという話だ。現在、クリスト・カトレアをおさめている王家は、我ら真の王家が選び、割り当てた代役だわん」

「なるほど。驚愕の事実ですが、それを知った僕たちは消されたりしませんか」

「説明のためやむを得ない漏洩だわん」

「なるほど、では、フェンロレン・カトレアについて質問をさせてください。さっきこの都市の聖獣という自己紹介してましたけど」

「そのままだ。我は人間の王家の娘であるが、同時にフェンロレン・カトレアに尻尾を与えられし聖獣でもあるわん」


(わからん)


「聖獣フェンロレン・カトレアから尻尾を与えられるために、我ら王族は懸命に研鑽を積む。そして、人間を越える存在として2回目の出産を迎え、新しい命となる。それが我だわん」


(わからん)


「些細まで知る必要はない。貴様たちの名を教えろわん」

「アーカム・アルドレア、こっちはアンナ・エースカロリです」

「我の手をざっくり斬りつけたのがアンナ、我の毛並みをチリチリにしたのがアーカムか。よく覚えたわん」

「それは復讐をたくらむ者の言い回しでは」

「気にするなわん」


(気にします)


「ついてこい。貴様たちを聖獣にあわせるわん。聖獣もまた、開拓者たちを脅威と感じている。開拓者と戦う気概のある同盟者にならば、聖獣も力を貸してくれるわん」

「カイロさんは戦ってくれないんですか?」

「無論、戦う。やつらには上澄みを何匹か洗脳され、使役されている。報復は確実にするわん」

「あの」

「なんだわん」

「そろそろ、わんわん言っている件について言及してもいいですか」

「したら殺す。我は王家の姫、不敬だ……わん」

「……わんわん」

「こら、アンナ、ふざけちゃだめですよ、わん」

「貴様ら……」


(カイロさん青筋を額に浮かべてるじゃないですか。なにか深いわけがあるんだろうな。わん)

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