突破口を求めて


 クリスト・カトレアの地下水路は度重なる増築と改築により、複雑に入り組み、一種の迷宮と化していた。いわゆるダンジョンである。

 アーカムがドリムナメア聖神国にて懸命に取り組んだ地下水路のモンスター討伐があったように、この都市の国家の地下も安全と言う訳ではない。


「ふんっ」


 アンナは鋼の直剣と、ジュブウバリ族の里でもらった分厚い刃の曲刀の二刀流で、ネザミーの群れを斬り伏せた。

 天才剣士アンナ・エースカロリの手にかかれば、低級のモンスターなど相手ではない。


 ネザミーの肉をさばき、火を起こして焼く。

 美味しくないが、食べないよりはマシ

 

 地下にこもって数時間が経過した。

 まだ見つかってない事を考えれば、超能力者から姿を隠すことには成功しているらしかった。


 アーカムに膝枕をしながら、ネザミーのお肉を鼻先に動かす。

 起きない。

 仕方ないので、直接、肉を鼻先にくっつけた。


「ァッ……」


 地味な攻撃で、反射的にアーカムは目を覚ました。


「おはようアーカム」

「……逃げて、地下に隠れたってところですか」

「察しが良くて助かるよ」

「どれくらいたちました」

「3時間と20分くらい」


(潜伏には成功してるか。流石はアンナっち)


「ところで、アンナ、さっきポーション飲ませる時、なにか……その口移し的なことしましたか?」

「してない」


(なにを訊いてるんだ俺は。気絶から目覚めてそうそう。まるで変態じゃないか。いやね、でもね、うっすら意識あったから、やたらえっちな展開だなとかぼんやり思いつつ、ここで飲まなきゃ男子失格な使命感に駆られてたわけですよ。そうか……してないか、あれは幻覚……フッ、俺の想像力もくるところまで来たな)


「アーカム、なにか策はある」

「策ですか……」


 アーカムは頭を悩ましながら、アンナの膝から頭を起こす。

 

「いてて」

「もう少し寝てて」

「いや、大丈夫ですよ」

「寝てて」


 ぐいっと頭を倒され、アンナの太ももに沈む。

 実に愉快だった。

 

 興奮と楽しい気持ちを押さえながら、アーカムは火を見つめて思案にふける。

 だが、まるでアイディアが思い浮かばなかった。


 敵は強大だ。

 対抗することはできるかもしれないが、その後の詰め方がわからない。

  

 ふと、アーカムの勘がささやく。

 

『戦力を補充しなければ』


(まあ、たしかに。どのみち俺はもうたいして戦えない。魔力もほとんど残ってない。三式の魔術を10発撃ったら燃料切れだ。どこかで戦力を整える必要がある。魔力を回復させるか、あるいは助っ人でも……)


「あれ? あの犬なんか……」


 ふと、水路の向かい側にちいさな犬を見つけた。

 下水路に犬。おかしな組み合わせではない。

 だが、アーカムの勘はささやいていた。


『それだァ!!』


(……)


「追いかけましょう」

「? あの犬を?」

「あそこに突破の糸口がある気がします」


 アンナはアーカムの言に従い、彼をお姫様抱っこする。

 胸の柔らかさが相変わらず気になるアーカム。くんくん。

 アンナとしては、この男は性欲のない紳士だと思っているので、全然気にしていなかった。


 ちいさな犬を追いかけて、2人は下水路をトボトボと進む。

 犬は時折、2人がついて来ているのを確認するように振り返って来た。


「まるであたしたちを導いているみたい」

「やっぱり……」

「確信があったの?」

「勘です」

「なるほど、確信だね」


 2人は犬を追いかけ、やがて、巨大な縦穴へとやってきた。

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