一時潜伏
「アーカム」
アンナはサッと駆け寄り、アーカムの肩をささえる。
石片が腹部に深く刺さっており、真っ赤な血が絶えずあふれ出していた。
「アンナ、僕を、やつのもとまで……ヒーリングで、やつはあらゆるダメージを癒します……この程度じゃ、すぐに復活します……だから封印を」
「でも、アーカムには杖がない」
「やつの言っていた、封印拘束具を使います……」
「使い方わかるの」
「勘でなんとかします……」
アーカムをお姫様抱っこし、アンナは散らばった肉片のもとへ。
落ちている十字架の杭を拾い、アーカムに握らせる。
「どう。ピンんと来た?」
「刺せばいいだけみたいですね……」
「なら、あたしがやる」
アンナは封印の杭を受け取り、アーカムを少し離れたところに横たえた。
今も肉片たちは急速に一か所に集まっている。
だからこそ、どこへ拘束具を刺せばよいかわかる。
駆け出し、トドメを刺す。
舐めたマネをした者への復讐。
なにより、大切な相棒を傷つけられた怒り。
すべて込めて封印の杭を突き刺した。
肉片に深く刺さった。
だが──
「っ」
アーカムの勘が囁いた。
『封印できない、アーカム』
(なぜ)
『生態認証がついているのではないか』
(そうか……よくよく考えればそうだよな……)
近未来の兵器において、武器の使用者の生態コードを登録し、登録者しか武器を扱えないようにするのは至極常識的なシステムである。
老人の封印拘束具は、間違えても自分へ向けて使われないように、外部の物には利用不可に設定されていたのだ。
「アーカム、あたしちゃんと刺したよ」
「僕の推測が甘かったです……ここじゃ倒す手段がない……逃げて、ください……」
「嫌だよ、どうしてこんなやつに……あたしたちは負けてない」
「僕たちには……まだ、このステージは、はやかった、それだけのことです」
(力を蓄える必要がある……カテゴリー5でこの強さ……この先はもっと厳しい戦いになる……)
「アーカム……」
「はやく、時間がない、もう再生しきってる」
アンナは名残惜しそうに再生する肉片を睨みつけ、最後に憂さ晴らしとばかりに踏みつけると、アーカムを拾って、急いでその場を立ち去った。
「どうすればいい、倒せない敵なんて……あたしどうしたらいいかわからないよ」
「……」
「アーカム?」
すでにアーカムの意識はなかった。
血が出過ぎていたのだ。
アンナは懐からポーションを取り出して、半分を傷口にかけ、半分を無理やりアーカムの口に流し込もうとする。
傷の方が蒸気をあげて、癒えていくが、なかなか飲んでくれない。
「ちゃんと飲んでよ」
仕方がないので、アンナはいったんポーションを口に含んでから、アーカムの口のなかへ流し込むことにした。
これだとこぼれずに注ぐことができる。
不思議なことに、この方法だと、アーカムは飲んでくれた。
本能が飲ませたのだろうか。
アンナはアーカムを連れて下水路に降り、身を隠した。
本当なら宿屋に戻って、いつも常備していたポーションとやら包帯やらで治療をしたかった。
だが、都市を取り囲む黒い巨人たちが気がかりで、とても表立って動くことができなかった。
アンナは暗くじめっとした下水路の隅で、眠るアーカムのまくらとして膝をかしてあげた。
「はやく目を覚ましてよ」
狩人たちは一時の潜伏を余儀なくされた。
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