旅立ち
3日後
「アルドレア様、お客様がいらしています」
本日も朝チュンから目覚めるというどこのハリウッド映画の主人公並みに非日常的な非日常(それはもうあまりにも非日常)にびっくらこいて早々に部屋から逃げだすと、早々にビショップに呼び止められ、そんなことを言われた。
「お客様?」
「アンナ・エースカロリ様です」
「あ」
来ました。
ついにアンナっちが帰ってきました。
すぐに客間へ赴きました。
真白いソファに小汚い娘が座ってます。
梅色の髪、不機嫌そうな眼差し。
間違いなくアンナさんです。
「アーカム、ずいぶんいい生活してる」
「これには事情がカクカクシカジカン」
「へえ、それじゃああたしが連日森を走り回って来たのは無駄なんだ」
殺し屋の目に変わりましたね。三秒後、俺の首が飛びます。
許してください、アンナっち!!!! なんでもしますから!!
「冗談だよ」
「ホッ……」
殺されずに済みました。
アンナさんはその後、俺の相棒ということで、いろいろとルールー家がよくしてくれました。
森を駆け回って、小汚くなってしまっておりましたが、温かい湯に癒され、綺麗な服をもらったあとは、貴族令嬢のごとく本来のポテンシャルを発揮できるように。あら綺麗。さすがはエースカロリ家のお嬢さま。美人さんです。
その過程で、アンナさんは、ルールー家のことや、継承戦のこと、悪魔のことなど、尋問のようにビショップさんを追い詰め、エレントバッハ氏に締め上げてました。こわやこわや。
「あたしのいないところでそんなに物語が進んでいたなんて……」
最後にはがっくし落ち込んでしまいました。
「アルドレア様」
「なんですか、エレントバッハさん」
「この方は……その、アルドレア様のご同僚の方でしょうか」
「ええ。その予定ですね」
「よ、予定……それはつまり、契りを交わしたとか、そういう……」
「? 契り……ああ契りですか(雇用契約のことだろう)。まだですね(だって狩人協会に入ってないもんな、俺ら)」
「ホッ……それはよかったです(まだ、アルドレア様に婚約者はいない、と……そうですか……)」
翌日。
俺の傷もすっかり良くなった。
毎日、高いポーションを飲んでいたおかげだろう。
そこら辺の治療費全部ルールー家がもってくれるのだから、太っ腹だ。
流石は司祭家さまです。
俺とアンナはルールー司祭家の裏口(といっても倉庫の搬入口みたいにやたらデカい)にて、用意してもらった物品を確認していた。
「こちらはお二人の旅のために選ばせていただいた装束一式でございます」
数日前に町へ出て、オーダーしていた装備だ。
狩人協会のものとは質が異なるが、だいぶん立派な外套装備だ。
黒革に素材で、白いラインが目立つように入っている。
これならロングコート大好きっ子なアンナさんもお気に召すことでしょう。
「この白いラインが要らないかも。蛇足」
文句を言うんじゃありません! 俺が入れたかったの!
「葡萄酒? これアーカムが飲むの?」
「はい、飲んでみようかなって」
「ふーん」
そのほかにも、アンナさんに厳しい検閲を受けながら、俺は荷物用の馬くんに「人よりは軽いぞ」と励ましながら、荷物の載せていく。
荷造りの仕方がわからなかったのでビショップさんに教わった。
そのとおりにやっていったら上手くいった。
アンナも大量の荷造りは初めてらしいので、ビショップさんに教えてもらうことになった。
アンナが荷造り講習を受けている間、旅立ちの準備を終えた俺は、今日までお世話になったメイドの方々やバトラー(イケメンしかいない。厳しい格差社会を感じる)たちへお礼を言ってまわった。
「アルドレア様」
「エレントバッハさん、これまでお世話に──」
「ちょっとこっちへ」
物陰へ腕を引っ張られます。まさかぴょい??!!
それは流石に積極的過ぎではありませんか!!!?
「アルドレア様に餞別を贈りたいと思って」
餞別、ね。
そういえば、ジュブウバリの里を去る時も、カティヤさんは餞別をくれたな。
この世界の人間は義理堅いので、よく贈り物をくれる。
なにがもらえるんだろうか(ワクワク)
「手を出してください」
「右手でいいですか?」
「剣はどっちの手で振りますか」
「基本は両手ですけど、片手で扱う時は右ですね」
「では、右がいいでしょう」
そういって、エレントバッハさんは俺の右手をぎゅっと握りました。
焼けるような痛みが骨の髄まで侵入してきます……ってなにしてんすか??!!
「いッ、な、なにを……」
「餞別です。あなたの長い旅のなかで、この光が少しでも助けになることを願います」
袖をまくる。
ちいさいが確かに白光する模様があった。
「これは……」
「アルドレア様はルールー家の盟友です。直接の戦力としては役に立たないでしょうが、教会関連で困ったことがあれば、その『聖刻』があなたの身分を保証します。私の想いを、あなたの旅に連れて行ってください」
「……大事なものなのでは」
「分譲したのはわずか0.2%です。アルドレア様にルールー家を覚えていてもらえるなら安い投資でしょう」
「なるほど。大事にします」
そう言って、物陰からでようとする。
が、引き止められる。
彼女はちょんっとつま先を伸ばして、背伸びして、柔らかい口づけをしてくれた。
なんということだ。最近の若いの子はけしからん(歓喜)
「わがままを受け入れてくださり、ありがとうございます」
「いえ、たいしたことでは(全集中の呼吸で平静を装う)」
物陰を出ると、どういう訳か、メイドたちが色めき立ってこちらを見てくる。
な、なな、なんだなんだ、なな、なんでそんな目で見てくりゅ! 色っぽいことなんて何もなかっただりゅうがりゅ!(噛み)
エレントバッハは「こほん」っとちいさく咳ばらいをして、メイドたちに余計なことを言わせずに制圧、俺の手を引いて馬のもとまでエスコートしてくれた。
俺とアンナは馬にまたがり、後ろの荷物持ち専用馬くんがついて来ていることを確認して、裏口から外へ。
盛大に手を振られながら、俺たちは送りだされました。
ありがとうございました、ルールー家の皆さん。
そして、エレントバッハさん、さようなら。
また旅がはじまる。
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