66:神の炎と


「ここまで来れば…」


氷の竜にシャルとローグを乗せてパンデモニウムから離れた森へと着陸させたセラは二人を降ろすと結界の魔導具を使って二人を中へと入れる。


「何から何までごめんね…セラちゃん」


「謝らないで…」


セラは意識を取り戻したシャルと意識を失ったままのローグをポーション等を使って手当てしていく、シャルは手当てを受けながらパンデモニウムの上空に目を向けた。


離れているにも関わらず戦闘音が響いてくるパンデモニウムの上空では燃え盛る炎の剣を振るう天使バニシエルと白く輝く光の剣を振るう竜人レイルが衝突していた。


「情けないわね…結局またレイル君に任せきりにするだなんて…」


どことなく自嘲する様にシャルは呟く、もはや自分では足手まといになるだけだと分かっていても世界の行く末を一人に背負わせている事に思う所はあった。


「…大丈夫、二人はここにいて」


手当てを終えたセラは立ち上がると氷竜に跨がる、そしてシャルを安心させる様に笑みを浮かべた。


「私がレイルを一人にさせない」









―――――


「ハハハハハハハハッ!!!」


バニシエルの翼から炎が吹き出す、炎は剣の形となっていき背後に千本の炎の剣が並んだ。


バニシエルがレイルを示すとレイルに向けて炎の剣が殺到する、四方八方から迫る剣にレイルは瞬時にクラウソラスを構えて振るった。


振るわれた刃が最初に迫った炎の剣を弾く、弾かれた炎の剣は別のとぶつかりそれが連鎖していく、幾度かそれを繰り返すと押し寄せた炎の剣群を傷ひとつなく捌き切った。


「くくっ!!!」


バニシエルはレイルが剣群を捌いた直後に高速で迫ってレーヴァテインを振るう、縦横無尽に振るわれる炎の刃と光の刃が衝突する度に星が落ちたかの様な閃光が生まれた。


「“轟天裁火ソドム”!」


レイルが受け止めた瞬間バニシエルは左手に雷火を纏ってレイルに振るう、轟雷と爆炎が眼前に広がった。


「む!?」


戻そうとした左腕が動かない、爆炎が晴れるとバニシエルの拳を鱗が砕けた手で掴んだレイルがバニシエルを眼で捉えた。


レイルがクラウソラスをバニシエルの左腕へ振るう、だがクラウソラスが左腕を斬る直前にレーヴァテインから噴き出した炎の枝が左腕を斬り落とした。


「自分の腕を斬り落とすか」


「その剣で斬られたくないからね」


高速でレイルから離れたバニシエルは笑みを浮かべながら傷口から炎を吹き出させる、炎は腕の形になると瞬く間に元の腕へとなった。


(永劫争剣ダインスレイヴの時ですら並の神器に劣らぬ性能だったが…)


三つの呪いは本来の姿を取り戻した事で祝福へと変わっている、“不癒”は不滅の存在を滅ぼす“不死殺しの祝福”、“不死”は全盛の肉体を維持し続ける“生命の祝福”、“暴走”は所有者の力の全てを引き出す“全開の祝福”となって発動している。


現にレイルは炎の枝で刻まれた傷も“轟天裁火ソドム”を受けて砕けた鱗も塞がり戻っている、“全開の祝福”で引き出した力による反動も竜の再生力と合わさってデメリットにはなっていなかった。


「闇雲に近づくのは悪手か、なら…」


バニシエルはそう呟くと全身から溢れた炎を集約して巨大な火球を生み出す、レイルは身構えるがバニシエルは生み出した火球をに落とした。


「っ!?」


落ちた火球は一瞬でパンデモニウムを覆い尽くす、魔物達が断末魔を上げながら燃えていく中バニシエルはレイルに向けて話し掛けた。


「まさかこれを使う事になるとは思わなかったが、君を殺す為ならば惜しんでる暇はなさそうだ」


燃え盛るパンデモニウムから灰色の煙…否、灰と炭の塊が幾多も昇ってくる、それはバニシエルの周囲でバラけて新たな形へ再構成されていく。


「アステラが使っていた手だが、それに倣うとしよう」


再構成されて現れたのは顔全体を覆う仮面を付けた武装した天使だった、数百体近くいるそれはレイルを包囲すると一斉に飛び掛かった…。

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