6:山岳越え


ギルドで情報を得て宿から出発したレイル達は山岳地帯の入口まで着く、道は整備されているが入口にも関わらず高い木々が生えており、五感を強化して気配を探ってみれば差はあれど魔物の気配が感じ取れた。


「かなりの数だ、まるでダンジョンだ」


「…地上でここまでなってる場所があるなんて」


二人で警戒しながら山へと入る、道は馬車でも余裕があるくらいの広さがあり進む事には問題ないが襲ってくる魔物の多さがかなりのものだった。


「キシャアァァァァァァッ!!」


木々を跳び回りながら魔猿エビルモンキーの群れが四方から襲い掛かる、だがセラが放った氷柱が空中でエビルモンキーを貫き射ち落としていく。


レイルは魔猿を潜り抜けて迫る血塗れ狼ブラッドハウルを交差すると同時に斬り捨て、『疾爪しっそう』を放って前方にいたブラッドハウル達も蹴散らした。


「セラ、大きいのが来る」


「分かった」


言葉を交わした直後に上から巨体が降り立つ、獅子の体に竜の頭と翼、蛇の尾をしたそれは混合獣キメラの中でも上位個体である混合竜獣ドラゴキメラだった。


「ガアァァァァァァッ!!」


肘から先が竜になっている前脚がレイルに向けて振り下ろされる、剣で受け止めるとずしりとした重さが伝わり鉤爪が目前まで迫る。


「はぁ…、あぁっ!!」


身体強化で押し留まりながら剣に魔力を走らせる、硬質な鱗に覆われた前脚に剣を喰い込ませながら押し返していく。


するとドラゴキメラは一瞬で飛び退いて距離を取ると竜頭からブレスを吐き出す、道一杯に広がる風のブレスが当たる寸前にレイルの前に展開された氷壁が阻み、威力を殺した。


「行って」


セラの合図と同時に『天脚てんきゃく』を発動して宙を駆け上がってドラゴキメラの頭上に来ると獅子の頭が吠えながら翼を拡げて飛ぼうとする。


だがその直前にドラゴキメラの四肢が地面ごと氷に包まれ飛ぶのを抑え込む、氷は一瞬で砕かれるがそこに生まれた隙にドラゴキメラの双頭に氷塊が叩きつけられてたたらを踏ませた。


その間に魔力を剣に走らせたレイルがドラゴキメラに向けて落下する、それを迎撃せんと尾の蛇が牙を剥いて迫る。


「竜剣術『崩牙ほうが』…」


迫り来る蛇を真っ二つにしながら剣を走らせる、峰から魔力を噴出しながらドラゴキメラの巨体に降りたレイルは続け様に翼を斬り落とす。


雄叫びを上げながら竜頭がレイルに向くと顎が開かれて魔力が集約していく、そしてブレスが放たれたようとした瞬間レイルは逆袈裟で竜頭を斬り落とすと勢いのまま回転して竜頭を蹴り飛ばす。


「『閃舞衝せんぶしょう』!」


暴れる巨体から飛ぶと同時に獅子の頭を斬り落とす、着地すると同時に獅子の頭が落ちて転がると蹴り飛ばされた竜頭のブレスが爆発して服をはためかせる。


風が治まると山道には少しばかりの静寂が戻った…。






―――――


戦闘を終えたレイルとセラは陽が落ちる前に移動して夜営の準備を行う、焚き火が安定してから二人で地図を見ていた。


「おかしいな、間違いなく」


「ん、野道を行ってるならともかく整備された道でここまで魔物が出るのは異常」


通常整備された道には魔物避けの魔術が封じられた魔導具や呪文等によって魔物が近づかない様になっている、だが今日の襲撃の頻度を考えるとそれが正常に機能していないか若しくは…。


「魔物が追いやられている?」


ドラゴキメラの様な強い個体によって忌避感を無視してでもその周辺に行かざるを得ない状況に追いやられた可能性がある。


「山岳地帯の生態系が変化してる?それもここ最近でか?」


「…資料にはキメラの上位個体が山道に出るなんて報告はなかった」


その後も二人で話してはいたが確証は得られず一先ずは明日に備えて交代で寝る事にした。


セラが寝たのを確認したレイルは焚き火に薪をくべながらぽつりと話す。


「エルグランド、この山に入ってから血がざわつくんだが心当たりはあるか?」


(なにかがいるのは分かる…だが魔物共の気配で上手く掴めぬ、この山は早々に下りるべきだろう)


「…そうか」


焚き火を見ながらレイルは呟く、火を揺らす風が木々を通り抜けて哄笑の様に響き渡った…。

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