34:向き合うべきもの


「レイル!?」


ぐらりと体を傾かせて倒れるレイルの体を慌ててセラが支える、セラは一体何をしたのかとフラウに目を向けた。


「安心しなさい、眠ってるだけよ」


「眠ってる…?」


「闇魔術に相手を眠らせて思い出したくないものを見せる“悪夢堕としナイトメアフォール”っていうのがあるの、それを私なりに改良したのを掛けたわ」


「どうしてそんな…」


「レイルは竜の血を体は受け入れてはいるけどその体の変容に心がついていけてないわ、だから…」


眠るレイルを見ながらフラウは告げる。


「荒療治になるけど強くなってもらわないとならないわ、心がね」







―――――


「う…」


意識が覚醒したレイルは起き上がって周囲を見渡す。


そこは紅蓮の世界だった、視界に映る全てが紅く染まり自分が立っている地面すら炎が真下にあるかの様だった。


「ここは、あの時の…」


「そうだ、ここは我と貴様の精神世界だ」


突然掛けられた声の方へと振り返る、視線の先には暗い闇が広がっておりその中からレイルに向けて歩いてくる者がいた。


その姿に思わず息を呑む、それはレイルとまったく同じ姿をしていた。


鈍色の髪も穏やかな印象を与える容姿も腰に差している剣すら同じだった、唯一違うのは瞳の色が金色の竜の眼となっている事だろう。


「お前は…っ!?」


目の前にいたレイルの姿をした何かが剣を抜いて斬り掛かってくる、レイルは咄嗟に剣を抜いて受け止めると衝撃に任せて後ろに跳んで距離を取った。


「言った筈だ、ここは貴様と我の精神世界、そして貴様が抱えきれなかったものから生まれたのが我だ」


「くっ!?」


再び迫りくる剣を受け止める、身体強化を発動するがそれでも押し込まれていく。


鍔迫り合いとなりながら互いの瞳が交差する、剣を翻して刃を流す様にして鍔迫り合いを解くと互いに振るった剣がぶつかり合う音が周囲に木霊する。


金眼のレイルが繰り出す斬撃は鋭く重い、レイルはなんとかそれを受け流し、弾きながら反撃するが容易く対処されてしまう。


「無駄だ」


金眼が剣を受け止めながら吐き捨てる、全力を込めて尚レイルの剣は押し込む事が出来なかった。


「我は貴様の抱えきれなかったものを抱える者、竜の血とその血が生み出す衝動と本能…そして貴様から生まれた激情こそが我だ、そしてこの世界では貴様は竜の血を扱う事は出来ない」


剣が力任せに弾かれる、レイルは地面を転がりながらも立ち上がると目の前の金眼へと向き直る。


「なら何故俺を斬ろうとする!?」


「貴様が脆弱だからだ」


放たれる“疾爪しっそう”を横に跳んで避ける、だが絶え間なく放たれる斬撃に避け切る事は出来ず剣で弾いて逸らす。


「薄々自覚はあるだろう、貴様は既に人間と呼べる体ではない事に」


「!!」


「人から外れ、されど竜でもない化物になっていると気付いているだろう、貴様が相対してきた奇跡と同じ様にな」


再び剣がぶつかり鍔迫り合いの形となる、再び押し込まれながらも抗っているとそれは更にレイルに言葉を投げかける。


「だが貴様はそれに耐えられない、背負う強さがない、事ある事に揺らぎ迷う貴様ではいずれ壊れる事は目に見えている」


「…がはっ!?」


レイルの腹に蹴りが叩き込まれる、まともに受けてしまい転がった先で腹を押さえながら痛みに堪えるレイルに向けて金眼は告げる。


「ならばこそ此処で貴様は消えておけ、我ならば迷う事も揺らぐ事もない、化物となろうとな」

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