33:やるべきは


その後、泣くフラウを慰めてライブスも加わって事情と状況を説明する、説明の端々で表情を変えながら最終的には頭痛を堪える様な仕草で聞いていた。


「という事ですな」


「…あーうん、ちょっと待って、ただでさえセラに恋人が出来て大人の階段飛び上がってたってだけでもあれなのにバニス教団がまた出てきてゼドが奇跡になった?何を考えてんのよあの剣馬鹿…」


「まぁ、ぶっちゃけてしまえばかなり切羽詰まっておりますねぇ…」


「状況は分かったわ、で?私に何させたい訳?」


「ひとつは彼に関してですな、君なら見た方が早いのでは?」


フラウはそう言われてレイルを見る、眼に再び輝きを灯しながら見続けると少しして目を見開いた。


「何よこれ…この混ざってる魔力のって竜の血じゃない、アンタもしかして竜と人との間にでも生まれたの?」


「いや、竜と戦った時にその血を取り込んだだけだ」


「取り込んだだけって…はぁ、流石ゼドの弟子だわ、ぶっとんでるわね」


「先生、実はその竜の血に関してなんですが…」


セラは竜の血が強まっている事、日に日に暴走の危険性が高まっている事を説明する、レイルも身に起きた事を話していくとフラウは頷いた。


「それで私に相談したって訳ね」


「はい、先生なら封印魔術で竜の血が暴走するのを防げるんじゃないかと思って」


「…結論から言わせてもらえば出来ないわ」


「っ!?…先生でもですか?」


「理由はみっつあるわ」


フラウは指を一本立てると説明を始める。


「ひとつは封印魔術は対象を抑えつけるのではなく対象を依代に閉じ込める事に特化した魔術なの、竜の血の作用を封じるのもあるにはあるけど時間が掛かるわ」


今はその時間がない、と告げると二本目の指を立てる。


「ふたつめはレイルの体、竜の血が異物としてあるならともかく既に肉体と同化して全身に回っているわ、今の状態で封印したらどうなるか保証は出来ない」


そして三本目の指を立てる。


「みっつめだけど…アンタ竜の血なしでゼドに勝てる?」


「っ!」


フラウから投げ掛けられた言葉にレイルは表情を強張らせる、それを見たフラウは淡々と言葉を紡いだ。


「腹が立つけどあいつの強さは本物だわ、おそらく剣士としてなら最強と言っても良いくらいのね…あいつと戦うなら使える手はひとつでもあった方が良いわ」


確かにゼルシドと一度戦ったレイルは勝てるかと聞かれたら自信はなかった、魔力操作も剣術もレイルの上であると肌で感じたからだ。


「だからアンタがやるべきは竜の血を封印する事じゃないわ」


「なら何を…」


「アンタがやる事はひとつ、自分自身で竜の血を制御する事よ」









―――――


「確かにそれが出来れば良いが…」


言われた事に素直に頷くのは難しかった、それが出来ないからこそ封印出来ないかと相談したのだから。


「出来るわ、というよりアンタは無意識下に制御してるわよ」


「「「え?」」」


フラウが告げた言葉にレイルとセラはおろかライブスまで疑問の声を上げる。


「竜の血、中でも古竜エンシェントドラゴンの血なんて取り込めたとしても普通なら血に宿る再生力や肉体や精神の影響に耐え切れずに壊れてもおかしくないわ、なのにアンタは自我を失わずピンピンしてる」


そう言ってレイルを指差すとはっきりと告げた。


「アンタは無意識の内に自身を竜の血で壊れない様に制御してるわ、だからアンタがやる事は無意識でしていた事を意識して完全にできる様にする事よ」


「完全に…だが何をすれば」


レイルはおもむろに自身の手を見る、それを見たフラウはレイルに問い掛ける。


「ひとつだけ制御を完全にする方法があるわ」


「あるんですか?」


「ええ、でもかなりきついものになるわ、下手したらアンタの心が壊れるかも知れない…それでもやる?」


フラウは再び鋭い眼でレイルを見据える、それに対してレイルは眼を逸らす事なく答えた。


「お願いします」


「…」


「俺は師匠を止めたい、その為にも今のままでは駄目なんです」


「…分かったわ」


フラウはそう言うと指に魔力を集める、やがて指に紫色の光が灯り、それをレイルの額に押しつけるとレイルの意識が急激に遠ざかっていく。


「ひとつだけ忠告しておくわ、アンタがこれから相対するのはアンタの向き合うべきもの…、それを忘れない事ね」


フラウの言葉を最後にレイルの意識は途切れた…。

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