21:止まらぬ悪意


「ふふ、少し見ない間に随分と強くなられた様ですわね」


アステラはクックッと喉を鳴らしながらセラを見ると次いでレイルを見る、そしてニヤリと口を歪めた。


「貴方がレイル様、ですね?こうしてお会いして分かりましたわ、我々とは違う方法で埒外の存在へと至ったお方…ふふふ、バスチールさんが敗北したのも頷けますわ」


「…」


話し掛けるアステラを見てレイルは顔を歪める、アステラから放たれる気配が否応なしにレイルの警戒を高めていた。


(なんだこの…あらゆる生物を生きたまま煮詰めた様な、ごちゃ混ぜにしてひとつにした様なおぞましさは)


ただ佇んでるだけで伝わる気配に吐き気すらしながらも剣を握り直す、するとゾルガ将軍が一歩前に出て向き合った。


「キュクロプスを差し向けたのは貴様か、一体何が目的だ?」


「目的、ですか…そうですね、隠す必要もないのでお話させて頂きますと今回の私の目的はふたつあります、ひとつは軍の指揮系統である貴方を討つ事ともうひとつ…ウェルク王国が所蔵するとされる三巨人の心臓ですわ」


「何!?」


アステラが告げた目的にゾルガは声を荒げる、レイル達は戦闘態勢を取りながらも疑問が生まれた。


「三巨人?」


「えぇ、かつて神が地上にいた時代に世界の支配者となろうとした三体の大いなる者達…神に敗れたその者達の心臓は死しても魔石となって復活の時を待っているのです」


「何故貴様がそれを知っている!?三巨人の逸話は残っていたとしても心臓の存在は口伝でしか伝えられぬ秘中の秘の筈だ!」


「バニス様は全てを見通しているのですよ、バニス様がここにあると言えばあるのですから私達はそれを実行するだけですわ」


アステラは当然だと言う様に言い切る、その眼にはバスチールと同じ狂信の輝きが宿っていた。


「…目的を知った以上貴様を逃す訳にはいかん、今ここで貴様を討つ」


「ふふ、よろしいのですか?」


身構えたレイル達にアステラは微笑みを浮かべる、そして王城をゆっくりと指差した。


「私の目的は語らせて頂きました、でも私一人で来てるとは言っていませんよ?」


次の瞬間、王城の屋根を貫いて細長い竜巻が昇る、それが風の攻撃魔術である事は明白だった。


「今のは…エリファスの“疾風旋槍ゲイルランス”、まさか!?」


「お察しの通りですわ、今あちらには制裁が向かっておりますの」


「くっ!」


ゾルガ将軍が王城に向かおうと踵を返す、だがその前に翼を生やして十字槍を手にしたアステラが立ちはだかる。


「ふふ、行かせる訳には行きません…と言いたい所ですが貴方は通ってもよろしいですよ?」


そう言ってアステラはレイルを指差した。


「…俺?」


「えぇ、どうしますか?ここで私の相手をして頂いても構いませんがその間に彼なら王の首を取る事など容易いでしょうね」


罠である事は明白だった、わざわざこんな事をする意味は分からないがアステラの掌の上で動かされているのは間違いない。


「…レイル、行ってくれぬか」


「将軍…」


「エリファスがいるとは言え奴の言う事が本当なら相手は単騎で黒騎団を壊滅させた者だ、我々の中で誰よりも早く王城に戻れるのは貴殿だけだ、頼む…」


「…分かりました」


セラとシャルに向き直って頷くと『飛翼ひよく』を発動させて王城へと駆ける、すれ違い様に口角を吊り上げたアステラがレイルを見ていた。





―――――


「ふふふ、さて…」


アステラがレイルを見送って振り向いた瞬間…。


飛来した氷柱とナイフが喉と腹を貫き、風を纏った長剣バスタードソードがアステラの胸部を肩から斬り裂いた。


「貴様に時間を裂いている暇はなくなった、どけ」


長剣が押し込まれて心臓を断った、だが血に染まったアステラは空いた左腕を上げる。


左腕がぼこぼこと膨れ上がっていくと巨大な爪を伴った不釣り合いな大きさの腕となって振り下ろされる。


寸前で長剣を引き抜いて飛び退いたゾルガがいた場所に腕が叩きつけられる、人外の腕力によって地面に蜘蛛の巣状の罅が走った。


「そう言わずお付きあいくださいませ」


首と腹に突き刺さったナイフと氷柱を無造作に引き抜くとジュクジュクと傷口が蠢いて塞がっていく。


「…貴様、不死身か?」


「まさか、ただ私に死を与えると言うならば…」


傷が完全に塞がったアステラは腕を広げて微笑むと…。


「最低でも1000回以上今のを繰り返す必要がありますわ」


あまりにも現実離れした事実を告げた…。

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