12:レイル対ゾルガ


「ふっ!」


飛翼ひよく』で加速して一呼吸で距離を詰めると真一文字に剣を振るう。


唸りを上げて振るわれたそれをゾルガは長剣バスタードソードで弾く、するとレイルは弾かれた反動を利用して独楽の様に回転して反対側から一閃を繰り出す。


「むっ!?」


迫る一閃を後退して避けるゾルガにレイルは『疾爪しっそう』を放って追撃を掛ける、ゾルガは長剣で斬撃を弾くがその間を狙ってレイルが『崩牙ほうが』を発動させて振り下ろす。


その瞬間、ゾルガの動きが加速して後退し、『崩牙ほうが』が空振る。


(さっきの風の魔術か!)


崩牙ほうが』を避けたゾルガは長剣をレイルに向けて突き込む、しゃがみこむ様に屈んで避けると真上を長剣が風を伴って通るが刃の向きが変わって振り下ろされた。


(間に合え!)


飛翼ひよく』を体の真横から発動させて自身を吹き飛ばす、地面を転がって立ち上がると風を纏ったゾルガが逆袈裟に斬り上げてきた。


(剣の速度が上がって!?)


先程よりも鋭い剣撃に防御が間に合わないと判断して『天脚てんきゃく』を使って上空へと逃げる、胴を浅く斬られて幾度か宙を蹴って離れるがゾルガ自身も風を纏って飛び上がる。


空中で再び刃がぶつかり合う、宙を蹴って跳ぶレイルと風を纏って飛ぶゾルガの残像すら残らぬ速さで空中に戦場を移して飛び交い、刃が交わる度に火花が飛び散る。


やがてどちらからともなく地面に降りるとレイルは再びゾルガに突進する。


(貴殿の速さ。見切ったぞ!)


ゾルガは突進してくるレイルを迎撃せんと長剣を振るう、タイミングを合わせた完璧な一撃だった。


だがレイルが振るわれた長剣の間合いに入る直前に剣を地面に突き立てるとそれを軸にして側転する様に飛び上がる、その動作によってゾルガの一撃は空を切った。


「何っ!?」


長剣を振るった直後のゾルガに向けて脚を振り下ろす、ゾルガの頭を狙った蹴りは一瞬早く間に差し込まれた籠手が受け止めるが。


「『天脚てんきゃくしょう』」


蹴りを受け止めた箇所に放出された魔力が籠手ごとゾルガを吹き飛ばす、靴底で地面を削りながら吹き飛ばされるゾルガは右手を開いて閉じてを繰り返すと再び長剣を構えた。


(強い…)


レイルは思わず心の中で称賛を送る、レイルが戦ってきた魔物、セネクやバスチールも言ってしまえば能力に頼った力任せの戦い方をする相手だった。


だがゾルガは違う、国を守る為に戦ってきた経験と純粋に研き上げられたに特化した戦闘技術によるものだ。


(これが将軍の剣術か…)


経験と研鑽の果てに得た強さ故に隙のない相手にぞくりとレイルは背筋を震わせた…。






―――――


(これ程とは…)


痺れが残る右腕を見ながらゾルガは冷や汗をかく、レイルの強さは知っていたつもりだったがそれはとんだ思い違いだと認識させられた。


技術ではゾルガの方が上だろう、経験は比べるべくもない、だと言うのにレイルはゾルガと対等に渡り合っている。


(剣を踏み台の様に扱うなど並の人どころか熟練の剣士でもやるまい…)


それに先程の蹴りもそうだ、剣士にしてはレイルの格闘術はかなりのものだとゾルガは認識する。


剣術と格闘術の両方を修める者はいるしゾルガや兵士達も武器がなくなった際の非常手段として格闘術を修めている。


だがレイルのそれは似て非なるものだ、剣術と格闘術を別れて修めてるのではなく一つの技術として成り立った動きなのだ。


だからこそあの一見無茶苦茶な動きが可能となっている、獣の様に荒々しいがひどく合理的な戦い方とも言えるのだ。


(まさしく戦闘術とでも言うべきか…)


目の前の自分の半分も生きてない青年にゾルガは心から畏怖を覚えた…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る