6:セラの想い


謁見を終えたレイル達は場を後にしてセラに宛がわれた部屋に戻る。


シャルは今後の事を話す為に謁見の間に残り、エルグランドも久しぶりに長らく話して疲れたのか眠りについてしまったので今はレイルとセラの二人だけだ。


「とんでもない事になったな…」


「ん、ここまで大きな存在だったなんて思わなかった」


二人の予想を超える強大な存在が相手になる事に思わずそんな事を呟いてしまう、それほどまでに与えられた情報は衝撃的だった。


あのバスチールの様な存在がまだいる、今でこそ生きてはいるがひとつなにかがズレていたらレイルは死んでいただろう。


だからこそ…。


「セラ」


「何?」


「話し合わないか、これからとか色々な事を」


自分の生き方と進む道に彼女を巻き込みたくなかった。





―――――


「話す?」


「…俺が魔力操作に関して教えられる事はもうない」


少し躊躇って呟く、セラから息を呑む気配が伝わった。


「だから契約を続ける必要はない、セラが俺の奴隷である必要もなくなった以上これからの戦いに君を巻き込む理由もない」


「…」


「これからどうなるか、死ぬかも知れない以上俺の目的の為にセラの目的を犠牲にしたくない」


「…私では力不足?」


「違う」


セラが呟いた言葉を否定する、そして自身の思いを口にした。


「好きな人に傷ついて欲しくない、これ以上俺と一緒にいれば間違いなくセラを傷つける」


「…冒険者なら傷つくのは」


「俺がセラを傷つけたくないんだ」


レイルは話す、自分の中にある竜の血が強まっている事もその結果セラに対して劣情を抱く様になった自分に危惧を抱いてる事も。


これ以上一緒にいればセラにこの劣情をぶつけてしまうだろう、それどころかまた竜の力が暴走して巻き込んだ結果セラが目的を果たせないまま死ぬかも知れない。


好きな人だからこそ、ここで契約を終わらせるべきだと思った、その考えを余す事なくセラに伝えた。


「…」


部屋に沈黙が流れる、レイルはセラが自分に言ってくれたレイルがセラを害する事はしないという信頼に応えられなかった罪悪感から何も言えないでいた。


「…レイルの言いたい事は分かった」


セラが立つ気配が伝わる、失望されたかと思って顔を上げられず俯いていると影がレイルを覆う。


疑問に思った瞬間、レイルの顔が両手で掴まれて無理矢理上げられる、視界一杯に無表情のセラの顔が映りこんだ。


「セ、セラ?」


「黙って」


何をするんだと聞こうとしたがその一言で封じられる、僅かながら漏れ出る魔力が冷気となって彼女が不機嫌なのだと分かったレイルは大人しく従った。


「レイルが言いたい事言ったから今度は私が言いたい事言う番、違う?」


「…違いません」


体に伝わる冷気とは別の寒気に背が震えるのを堪える、するとセラはゆっくりと口を開いて言葉を発した。








「…ふざけないで」


_______


絞りだす様に紡がれた言葉が耳に響く。


「契約を続ける必要はない?私を巻き込みたくない?暴走して傷つけたくない?ふざけないで!!」


激昂したセラが声を荒げる、初めて彼女が見せた怒りにレイルは呆然としてしまう。


「私がレイルと一緒にいるのは私の目的の為なのは間違ってない、でもそれだけだったらとうに別れてる」


顔を押さえる手に力が篭る、間近で輝くアイスブルーの瞳は今にも溢れそうなほど潤んでいた。


「別れないのはレイルを独りにしたくないから、傍にいたいから…だから首輪これを使ってでもパーティーを組んだ」


手が首へと回されて引き寄せられる、耳元にセラの吐息が当たる程近く抱き締められていた。


「奴隷になってでも傍にいたい…そう思えるくらい私はレイルが好きだから」


「…だけどこれ以上いたら俺はセラを」


「構わない」


レイルの声が阻まれる、より一層抱擁を強くしてセラは想いを言葉にする。


「レイルにならそういう事をされても良い」


「なっ…」


「我慢が出来なくなったら私を好きにして良い、竜の力が暴走しても私が止めてあげる、だから…」


まるですがりつく様に、倒れない様に腕に力を込める。


「傍にいさせて…これ以上独りにならないで」


「…どうして、そこまで」


分からなかった、どうしてセラがそこまで自分を想ってくれるのか。


レイルは確かにセラを助けたがそれだけでここまで尽くしてくれる理由が分からなかった、レイルにとってセラを助けられたのはただの偶然に過ぎなかったから。


「…私を助けてくれた時の事、覚えてる?」


「あぁ、でもあれは偶然間に合っただけで…」


「あの時のレイルの眼は昔の私と同じ眼だった」


「同じ眼?」


「誰かに期待する事を諦めた、生きる事に執着しなくなった眼をしてた」


そう言われて思い出す、セネクを斬ったあの時一瞬だけ自分の中で何かが切れた様な痛みが走った感覚があった。


「私はそれがどれだけ苦しいか知ってる、自分を守る為にそうならなきゃいけなかった辛さを知ってるから、見てみぬふりなんて出来なかった」


「レイルとパーティーを組んで、レイルと話す度にレイルの事ばかり考える様になった、好きだって気付いたら傷つくレイルを放って置けなくなった」


「傷ついても死にそうになっても、独りになっても誰かの為に怒れる優しいレイルに死んで欲しくないから…」


矢継ぎ早に想いが告げられる、どこかに行くのを阻む様に腕に力が込められる。


「私はレイルを独りにさせない、レイルが自分に優しく出来ないなら私が優しくする、だから…」


少しだけ力を緩めて再びセラはレイルと向き合う、そして…。


「生きて、傍にいさせて…お願い」


セラとレイルの唇が再び重なった…。

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