4:聖具


(知っているとも、あれは我が生まれる以前から存在するのだから)


ライブスの問いにエルグランドが答えるとレイル以外の全員に緊迫した空気が流れる。


「良ければ教えて頂けないでしょうか?我等は戦っている相手をあまりに知らな過ぎるのです、なにも分からぬままでは助けられる命を取り零してしまう…」


ライブスがエルグランドに向けて頭を下げて懇願する、今までの飄々とした雰囲気はなく真摯に頼み込む姿はレイルが幼い時に語られた聖者の姿と重なった。


「エルグランド…」


(…構わぬ、我とて本来の在り方を失ったあれらに思う所がある。

汝達が相対し戦う以上、知る権利はあろう)


そう答えるエルグランドは周囲を見渡しながら語り始める。


(聖具とは世界の循環に生まれた淀みを正す為に神が作り出したもの、世界を存続させる為に世界を滅ぼしうるものへの対抗措置として生み出されるものだ)





―――――


「対抗措置?」


(然り、この世界はあらゆるものが循環して成り立っている、魔力、生命力、魂、物質といったこの世界を構成する全てがな)


そうして語られるのはこの世界の構造だった、全員が口をつぐんで聞き入る。


(しかしその循環に淀みが生じる事がある、常ならば淀みは循環の中で解消されるがその淀みが解消されぬまま大きくなる事がある、その淀みから生まれるのが循環の破壊者、即ち世界を滅ぼす化身たるなのだ)


明かされた魔王誕生の謎にライブスさえ驚きを見せるがエルグランドは構わず続ける。


(神も魔王の誕生は誤算だったのであろう、この世界への過干渉をせぬ様にとしていたが魔王という存在に己が創った世界と命が滅ぼされるのを良しとはしなかった)


どこか遠い目をしながらエルグランドは読み聞かせる様に真実を語り続ける。


(故に生み出したのだ、魔王やそれに類する世界を滅ぼしうる存在が現れた時それに対抗し滅ぼす手段をな)


「それが聖具、という訳か」


(然り、汝と戦った者が使っていた“封獣縛鎖グレイプニル”は700年前の飢餓の魔王フェンリルを討つ為に生まれたものだ)


聞かされた話の壮大さに立ち眩みが起きそうになるがふと疑問がレイルの中で生じる。


「それだけのものがどうして人に伝わってないんだ?それだけ強大な武器なら今でも残っていたりすると思うんだが?」


(残らないからだ、聖具とは淀みを正す為に生まれたもの、本来であれば淀みを正した聖具は機能を停止して普通の武器へと戻る筈なのだ)


「…ならなんで奴等は」


レイルが戦ったバスチールの聖具は強度も力も今の技術で造られる魔剣等を遥かに凌ぐ性能だった、力を失っていたとは思えない。


(我もこの目で見るまで予想だにしていなかった、だがあの聖具を見ればどうやっては予測はつく)


エルグランドが目を細める、まるで唾棄すべきものを見たかの様に。


「蘇らせた?」


(役割を終えた聖具の力は失われた訳ではない、その機能を停止しただけで淀みが生まれた際に再起動する事もある、それを奴等は利用しているのだ)


「…まさか」


レイルの呟きと同時にライブスやウェルク王達も気付く。


「奴等は意図的に淀みを生み出していると言うのか?それによって聖具を蘇らせたと?」


(否、それだけでは機能の維持は出来ない)


ウェルク王の問いにエルグランドはそう答える、そしておぞましい事実を口にした。


(淀みとは力の偏りそのもの、淀みを内包した存在に持たせる、若しくは淀みを機能を停止した聖具に注ぐ事でその力を目覚めさせ無理矢理引き出している)


(奴等は聖具に数千の人の命と魔力を捧げる事で淀みを宿らせ、自らが循環の破壊者となったが故に永劫その力を振るう厄災へと貶めているのだろう…)

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