18:怠惰(リリアside)
「う…ん…」
意識を取り戻したリリアは腹に痛みを感じながら起き上がる。
見渡すとそこは広い洞窟の中の様だった、剥き出しになった岩肌が松明の灯りによって照らされており、次いで地面を見る。
そこには赤い液体で書かれた陣とその液体を抜かれたのであろう存在が無造作に転がっていた。
「ひっ!?」
見れば松明の陰になっていた壁際には似たようなのが幾つもあり、中には異様な姿に変形したものもある。
あまりのおぞましさに後退ろうとするが手首に嵌められた枷がそれを阻んだ。
「なっ!?なに!?なんなのこれ!?」
ガチャガチャと手枷を引っ張るが地面に繋がれた鎖はびくともせず、虚しく音が木霊するだけに終わる。
「起きたか、娘」
「ひっ!?」
声を掛けられ振り返るとバスチールが立っていた、その手には血肉で造りあげたかの様な見た目をした短剣が握られている。
「こ、此処はどこ!?なにをする気なの!?」
「祭壇であり禊の場だ、貴様を業を濯ぐ為のな」
そう答えると徐にバスチールはため息をつく。
「アステラがいればこの様な手間を掛けずに済むと言うのにこういう時は姿を見せぬ、出さぬ、居らぬ…」
腕の鎖を陣の上にあった抜け殻に巻きつけ壁際へと放り投げる、まるで机の上のゴミを捨てる様に。
「しかし主から賜った使命を成さぬ訳にはいかぬ、これ程の業を持つ者がこれから先にいるとも限らぬ、故に貴様にはなんとしても成ってもらうぞ」
「な、なんなの?そもそも“業”ってなに…?」
もはやあまりの状況にどこか冷静にすらなったリリアはバスチールが先程から言っていた言葉の意味を問いかける。
「業とは罪、命が生まれながらに犯す原罪なり」
「原…罪?」
「命は生まれながらに罪を犯す、しかし多くの者は自らの罪を自覚しない、認識しない、己の罪禍を知らぬ畜生のままでいる事を良しとする」
バスチールはどこか熱の籠った声で語り始める。
「だが意識してか無意識か僅かながら自らの罪を自覚する者がいる、罪を自覚する者は業を背負っているのだ、我々はその罪を自覚する者こそ人と呼ぶ」
「罪を、自覚する…」
「此処にあるのは出来損ない共よ、深き罪を持っている事を自覚出来ぬが故に濯ぐ事が出来ぬまま冥界に落ちおったわ」
まるでゴミを見るかの様な眼を壁際に向けてバスチールは吐き捨てる。
「貴様はあれらに比べれば良い、少なくとも死ぬ事はあるまいよ」
「い、いや!!私は業なんか持ってない!!」
「…無意識の方か、ならば我が明らかにしてやろう」
ドクリ、とリリアの心臓が高鳴る。
「貴様の業とは
耳を塞ぎたい、これを聞いたら…。
「本来己が為さねばならぬ事を他者にさせ、弱さを理由に守られる事を当然とし過ちを犯す事の免罪符とする」
「あ、あぁ…」
「自らを弱者と定義し周りの者に為させる事で責任を背負わず思考を放棄する事で苦難から目を逸らし逃避し続ける罪」
リリアは自らの言動を思い出していく、一時の感情に流され犯した罪を、その罪を自らの殻に閉じ籠ってアレッサ達に全てを任して決めさせ、流される自分を突きつけられていく。
「それこそ怠惰、貴様が濯がねばならぬ業よ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」
なによりも傍にいてくれた人を軽んじた罪を…。
―――――
「理解したか、己の業を」
バスチールが裁判官の如く問いかける、リリアはもはや言葉を発する気力すらなかった。
「案ずるな、如何に罪深くとも自覚したならば償える、この儀式を成せば貴様は贖罪を行える、許されるのだ」
その言葉に僅かに反応する、ゆっくりと見上げた先にはあの短剣がある。
自分はあれで貫かれるのだろう、そう思うとひとつの気持ちが溢れだしてくる。
レイルに怒りをぶつけられた時から考えていたが出来なかった死んで償うが今ならなるんじゃないかと考えたら抵抗する力が湧かなかった。
自分が犯した罪の罰がこれなのだと頭の片隅で納得してしまった。
「ごめんなさい、レイル…」
短剣が振り上げられ…。
「…?」
いつまで待っても下ろされない、見るとバスチールは振り上げた態勢のまま扉の方へ顔を向けている。
次の瞬間、扉に黒い線が幾度も走る。
ガラガラと積み木の様に崩れた扉の奥から剣を持った男が部屋へと入ってくる。
男は金色の眼をバスチールに向けると人とは思えない速度で距離を詰め剣を振るおうとするがバスチールが展開した鎖が剣を絡め止める。
「なんだ貴様、は…」
剣を止めて問おうとしたバスチールの頬に拳が突き刺さる、身体強化された拳はバスチールの体を壁まで吹き飛ばした。
その拍子に空中に弾け飛んで落ちてくる剣を掴み取ると…。
「分かりきった事を聞くな、敵に決まってる」
レイルは静かな怒りを込めて言い放った。
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