16:懇願


「こほっこほ…」


アレッサにポーションを飲ませる、意識がはっきりとした様だがそれでも受けた傷は大きく、自身で動くまでには至らない。


「これ…を、リリアに対になるのを、持たせてる…」


そう言ってレイルに魔石のついた耳飾りを渡す、互いの位置を認識できる様になる魔導具だった。


「なにも…出来なかった…」


彼女は涙を流してレイルの袖を掴む。


「今度こそ…助けるって決めたのに、守るって…思ったのに…!」


レイルは以前聞いた事があった、アレッサは幼い頃に妹を失くしたと…その面影をリリアに重ねていたのだろう。


「こんな事、頼んじゃ…いけないのは、分かってる…でも、お願い」


袖を掴む力が僅かに強まる、嗚咽を漏らしてアレッサは懇願する。


「リリアを、助けて…死んだら、もう…なにも出来ない…償う事も…謝る事も、なにもかも出来なくなっちゃうから…」


そう言い残してアレッサは意識を失う、これ程の傷を負っても彼女はなお他者を思って涙を流した。


「アレッサ!?」


意識を失った直後にハウェルが姿を現す、そしてこちらを見ると血相を変えて傍に走ってくる。


「レイル、一体なにが!?」


「…リリアを守ろうとして戦ったんだ」


その言葉で大まかを察したのだろう、レイルは抱えたアレッサをハウェルに託す。


「アレッサを頼む」


「…行くのかい?」


ハウェルはレイルを見て問いかける、その目はレイルの真意がわからないと物語っていた。


「…リリアを許せてはいない」


僅かな間を置いてレイルは口を開く。


「だがアレッサ達には恩がある、その彼女からの願いを反古にするのは気分が悪い」


「レイル…」


「…行け、彼女には生きてもらわなきゃならない」


頷いたハウェルはアレッサを背負って治療院に向かう。


「レイル…」


「大丈夫だ」


セラの呼び掛けにレイル答えて振り向く。


「行こう」


その眼に迷いはなかった。





―――――


魔導具を頼りに三人でリリアがいる位置へ向かう、認識できる場所は王都の外にあった。


「急いで伝えて頂戴」


シャルの影から烏が現れると丸められた紙を加えて飛び去る。


「今のは?」


「私の使い魔、将軍にこれまでと今の私達の状況を伝えてくれるわ」


烏が飛び去ったのを確認するとシャルはレイルに向き直る。


「場所はどう?」


「王都から北西、今の速さなら10分くらいの所で止まってる」


「…そこは確か廃棄された村があったはずよ、数年前くらいに魔物の被害が多くて住民は王都に移ったらしいわ」


「…教団の言動を考えればその手の宗教を基軸にしてる、なら儀式と設備には時間と手間を掛けると思う」


そう話し合いながら走っているとレイルの眼に廃墟の影が映る、懐から取り出した竜の血を煽って取り込み、竜の血と身体強化を併用して見る。


「戦闘準備をした方が良い、黒いローブを羽織った奴等が村をうろついてる」


「…確定ね」


黒いローブの者達、教団員もまだ距離が開いていながらこちらに気付いた様で全員がレイル達に向いて各々の武器を持って向かってくる。


「私が足を止める」


セラはそう言うと周囲に複数の氷の杭が現れ、射出される。


射出された杭は教団員の周囲に落ちると教団員の足ごと周囲を凍らせていき、動きを制限する。


「竜剣術“疾爪しっそう”」


そこへレイルが飛ぶ斬撃で半数を斬り裂き、半数をシャルがナイフと刺突剣エストックで首と胸部を正確に貫く。


村にたどり着くと再び5人の教団員が立ちはだかる、レイルが剣を構え直すと…。


突然教団員達は体が膨れあがっていき、黒いローブを引き裂いて変異していく。


「これは、オーガ!?」


シャルが変異した教団員を見て溢す、オーガとは人型の魔物の中でも上位の種族とされており強靭な肉体と高い知性、そしてその好戦的な性格が危険視されている存在だ。


それが五体レイル達の前に立ちはだかった。

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