閑話:リーダーとして(ハウェルside)

レイルが町を出てから3日過ぎた頃


レイルが所属していたパーティー『未来への礎』のリーダー、ハウェルは様々な手続きや作業などと云ったのを済ませて酒場で休憩していた。


「はぁ...。」


頼んだ麦酒を飲みながら思わずため息をつく、先日のレイル脱退の件は思っていた以上に影響を及ぼしていた。


まずは単純にパーティーの戦力が落ちた事だ。


レイルは攻撃手アタッカーだけでなく状況に応じて壁役タンクを行うなどサポートを怠らなかった。


それがなくなった事とあの二人が実質いない状況の今、未探索領域の開拓が主なアインツでは仕事をこなすのは厳しいだろう。


次にリリアの周囲の目に関する事だ。


開拓を進めている途中のアインツは規模がまだ小さく以前からの積み重ねもあってハウェルやアレッサに対する影響はそこまでない。


だが脱退の原因となったリリアに対する風当たりは相当なもので嫌がらせもあって泊まっていた宿を変えなければならない程だ。


「随分と疲れてんな」


その言葉と共に隣に腰を下ろす音がする、ちらりと見ると先輩冒険者のガルツォが麦酒を頼んでいた、40代になるが鍛え込まれた肉体と覇気に衰えはなく未だ開拓の前線に立ち、ハウェルがとある依頼をした人物である。


「…ええまあ、それでどうでしたか?」


「痕跡を辿ったが未開拓の領域に向かってた、あそこの奥には竜種がいるかもしれん程の魔境、そこに入ったとなりゃ期待は出来ねぇな…。」


「そうですか…。」


依頼したのはレイルのあの後の調査だった、ガルツォもレイルを心配していたらしく快く引き受けてくれた。


だからこそ悪い予想が当たった2人はいつもより苦く感じる麦酒を呷る。


「馬鹿野郎が、女に浮気されたからって早まりやがって…死んだらなにもかもがおしまいだろうが!」


「…それだけ大切だったんでしょうね、命を捨てられる程に」


「セネクのクソ野郎はどうした?あいつはいっぺん殺さねえと気がすまん!」


「一昨日から音沙汰なしです、おそらく町にはいないかと」


「ちっ!クソな奴ほど自分の事には気が回るな!」


ガルツォが杯をカウンターに叩きつけて憤る、麦酒をもう一杯頼むと目だけ向けて続ける。


「…あの嬢ちゃんはどうした?」


「あの日以来部屋から出てきません、今はアレッサに任せていますから早まりはしないかと」


「そうかよ...。」


「リリアは責めないんですか?」


リリアに対しては悪態を控えるガルツォに疑問を持って聞くと苦い顔で麦酒を呷って答える。


「最初はそのつもりだったさ、なんであいつを裏切ったんだってな...だがいきなり頭抱えて謝り続けちまうやつを責める気なんざなれねぇよ。」


「そうですか...。」


ガルツォが言う通りリリアはここ数日些細なきっかけで頭を抱え謝罪の言葉をうわごとの様に繰り返す様になった、今はアレッサが付き添ってるお陰か落ち着いてはいる様だがそれでも部屋から出てきてはいない。


「これからどうすんだ?今まで通りって訳にはいかんだろ?」


「ええ、とりあえずは諸々終えましたので王都に戻ってやり直そうかと」


「あの嬢ちゃんも連れてか?」


「そのつもりです。」


「なんでだ、俺が言うのもなんだがあの嬢ちゃんがした事はパーティーを問答無用で追放されたっておかしくねえだろ、なんでそこまで世話を焼く?」


「確かに彼女の過ちは許せないですよ」


ガルツォの問いにハウェルは毅然と返す。


「ですがレイルは彼女を罰するでも殺すでもなく縁を切る事を選んで行った、当事者を差し置いて私が彼女を罰するのはレイルの最後の情を踏みにじる事になる。」


一息ついてハウェルはきっぱりと言いきる。


「だからパーティーリーダーとして彼女は王都に連れていきます、その後どうするかは彼女自身が決めれば良い。」


「…お前さん、損な生き方してんな。」

「ええ、でもこの生き方は嫌いじゃないので」


微笑みながら答えるハウェルに思わず苦笑するとこの酒場で一番高い酒を頼み、それを空になったハウェルの杯に注ぐ。


「出立祝いだ、奢ってやる」


自分の杯にも注ぐとお互いに笑って杯を掲げる。


「互いの成功と」


「再会を祈って」


「「乾杯」」


杯をぶつける音が賑わいはじめた酒場で静かに響いた…。

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