第2話 2050年 つくりもの

ジリリリリリッ


 目覚まし時計の音を聞いて、わたしは何とかベッドを出て、顔を洗いに洗面所に行く。


 その前にお母さんに料理を頼んでおかないと。


「お母さん、今日の朝はパンと目玉焼きが食べたいな」


『分かったわ。5分で準備しておくから少し待っててね』


 わたしは、髪を整えて簡単に支度をすますと、朝食をとるためにダイニングに行く。


 テーブルにはまん丸の目玉焼きにベーコン。それとフルーツがのったヨーグルト。それらを綺麗に焼けた食パンと一緒に食べる。


 美味しい。やる気のでない朝には、お母さんがつくった朝ごはんが1番だ。


「お母さん、いつも美味しいもの作ってくれてありがとう」


『どういたしまして。今日も学校で頑張ってほしいから、一生懸命につくっちゃうの」


 お母さんはいつも素敵な笑顔をわたしに見せてくれる。


 わたしの自慢の優しいお母さん。




『あ、そういえば部屋の掃除をしたらこんなものがでてきたんだけど・・・』


 お母さんは、紙を見せてくる。私はこの紙に見覚えがある。


『これ授業参観の参加希望書でしょ。お父さんに連絡したほうがいい?』


 わたしは食べるのをとめて俯いてしまう。

 

「・・・しなくていいよ。どうせお父さんは忙しいから」


『そう・・・』


 お母さんは残念そうに紙をわたしに渡した。


「お母さんが来てくれればいいのに・・・」


『出来ればそうしたいのだけど・・・決まり事だから・・・』


「そう・・・だよね」


 折角の朝ごはんが暗い空気になってしまった。


 私はそのまま無言で食事を済ませ、学校に行く準備をして、外に出た。


 玄関から『いってらっしゃい、今日も頑張ってね』とお母さんの声が聞こえた。




 登校するときはいつも体が重く感じる。


 学校では学級委員長を任せられている。

 

 真面目そうなこと、お父さんが凄い人だからだという意味の分からない理由で、クラスのみんなから推薦された。


 強く断ればよかったのに、わたしはそのまま学級委員長になってしまった。


 なんで断らなかったのか?


 わたしは小さいころから、人と話すこと関わることが苦手だった。


 特に人からのお願いを断るのが特に苦手。断ったらその人から失望されたり、嫌われたりしないか不安になる。


 人と関わるのが苦手なのに学級委員長の仕事をしなければいけないなんて、学校に行くことが憂鬱になってしまう。




 憂鬱になりながら、通学路を歩いていると、工事音が聞こえてくる。


 ここ最近ずっと、道路の舗装工事をしている。


 作業員たちは雨の日も風の日も一日中、休まず作業をしている。 


 交通誘導をしている彼なんかは、わたしの暗い顔を見て、元気な声であいさつをしてくれた。 


 そんな彼らを見ているとわたしも頑張らなくちゃと思える。




 学校に着いて、いつも通りに授業を受ける。授業は教師の話が面白いから好きだ。


 クラスのみんなは、あまりちゃんと聞いてないみたいだけど。


 でもそんなみんなを見ても、教師は変わらず授業を続ける。


 授業が全て終わると気が重くなる。


 今日はクラスのみんなの授業参観の紙を集めなければいけない。


 話すのが苦手だから、クラスのみんなに呼び掛けるのもいちいち疲れてしまう。


 しかも提出状況がとても悪い。みんないい加減だ。注意すると嫌な顔をする。


 こうも苦労しているのに、わたしのクラスの皆からの評判は良くない。


 いつも暗そうにしてるからとか、人付き合いがとても悪いだとか、そんなところだ。


 勿論、そんなわたしには友達といえる存在はいない。

 



 学級委員長の仕事を全て終わらした後、暗い気持ちになりながら一人で帰る。


 周りの生徒はみんな誰かと一緒に帰っている。


 わたしも友達が欲しい。誰かと一緒に遊びたい。困ったときは優しく助けてほしい。


 でも、友達ができたとして、その人が本当にわたしのことを好きになってくれるか不安になる。


 わたしは話すのが下手だし、暗いし、不器用だからいつか嫌いになってしまうかも。


 そう思いながら下校していると、今朝と同じ工事現場に近づいてきた。


 作業員たちは変わらずに仕事している。

 

 彼らは任せられた仕事にいつも一生懸命だ。


 作業員たちだけじゃない。授業の教師やコンビニの店員、この前乗ったバスの運転手。


 彼らは任せられたわたしたちのための仕事を、断ることなく真面目にやってくれる。


 わたしたちには優しく接してくれる。


 そんな彼らがわたしは好きだ。


 


 そうだ、お父さんに友達もつくって貰おう。


 お父さんは彼らやお母さんもつくったのだから、同じように素敵な友達をつくってくれるはずだ。


 家に帰ったら、お父さんに無理行ってお願いしよう。


 わたしは次の誕生日が楽しみになった。

 

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