290話「お城」
日焼け止めクリームも無事に塗り終え、準備は万端。
しーちゃんは清水さんと手を繋ぎながら、海へと駆けだしていった。
海ではしゃぐ美少女二人の姿を眺めながら、俺は孝之と眼福だなと納得し合う。
控えめに言って、このままあと三時間は眺めていられそうだ。
「ほーら、さくちゃん! ばしゃーん!」
「あはは! 紫音ちゃん、冷たいよ~!」
これぞまさしく、キャッキャウフフのエデン――。
俺は孝之と頷き合うと、お互いの彼女のもとへと駆けだす。
所謂、居ても立ってもいられなくなったというやつだ。
こうして海辺の波と戯れながら、四人で海を満喫する。
「たっくん! 砂のお城作ろう!」
暫く海で遊ぶと、しーちゃんは閃いたように提案してくる。
瞳を輝かせながら、既にやる気満々のしーちゃんのお願いを断れるはずもなく、俺は分かったよと頷く。
孝之達は一回休憩とのことなので、早速二人きりで砂のお城作成に取り掛かる。
まずは砂の山を作って、そこからお城の形にくり抜いていく……のだが、何ていうか俺の思っていたのと違う。
何が違うのかと言えば、お城が和風なのだ。
こういうのはてっきり洋風のお城だと思い込んでいただけに、まさかの和風なお城に何をどうしたらいいのか分からず手が止まる。
別に洋風のお城作りに慣れているわけではないのだが、和風となると上手くイメージが沸き上がってこないのだ。
しかししーちゃんは、ここでも類稀なる才能を発揮する。
指と爪を上手に使い、見る見るうちに京都とかにありそうな立派なお城の形になっていく。
「たっくんは、城壁をお願い! 天守閣は任せて!!」
「う、うん」
テンションはさながら、本物の建築現場。
こうして初めての共同作業により、それは立派な砂のお城(和風)が誕生するのであった。
完成したお城(和風)を前に、孝之は「すげぇな!」と素直に驚いてくれた。
しかし清水さんは、「そっちのお城なのね……」と少し呆れており、俺は心の中でうんうんと頷くのであった。
◇
たっぷり遊んで、気付けばお昼時。
休憩も兼ねて、海の家でお昼を食べることにした。
店内には他にも数組の家族連れがおり、みんなのんびりと楽しんでいる様子。
しかし、突然現れた元国民的アイドルの水着姿は、周囲からの注目を浴びるのに十分過ぎたようで、みんな驚いてこちらを見てきている。
こうして注目を浴びることには、俺ももう慣れてきたこと。
何よりしーちゃん自身、初めての海の家にワクワクしたご様子でメニュー表を眺めている。
以前みんなで行った、プールの売店とさほど変わらない気もするのだが、しーちゃん的には全然違うらしい。
「たっくん! どれにする!?」
「うーん、そうだなぁ。焼きそばかなぁ」
「焼きそば!? いいねぇ!!」
そんなに驚く? ってぐらい、ウッキウキのしーちゃん。
最終的に焼きそば、唐揚げ、たこ焼きを注文し四人でシェアすることとなった。
何だか全部茶色い気がするが、食後にかき氷を食べればプラマイゼロだ。多分。
「「いただきまーす」」
テラスのテーブル席に座り、みんなで昼食をとる。
差し込む日差しと、波の音。
そんな、普段じゃ得られない解放感が心地よい。
「はい、たっくんアーン」
楊枝に刺したたこ焼きを、しーちゃんがアーンと差し出してくる。
俺もアーンと口に含むと、ソースの風味とモチモチとした触感が絶妙に美味しい。
思えば、以前フードコートでアーンをして貰った時はたこ焼きが激熱で死ぬかと思ったけれど、今回は結構冷めていたから助かった。
「どう? 美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「へへ、なら良かった」
嬉しそうなしーちゃんの微笑みに、俺も自然と笑みが零れる。
「アツアツだな」
「アツアツね」
微笑み合う俺達の姿を、孝之と清水さんは面白そうに眺めている。
すまんな、たこ焼きは冷めていても俺達の関係はアツアツなのさ!
こうして一緒に楽しく昼食を済ませた俺達は、まだ時間はあるしもう少しだけ海で遊んでいくことにした。
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