288話「海!」

「お! こっちだこっち!」


 駅前で手招きする孝之と、その隣には清水さん。

 今は午前九時ちょっと前。

 今日俺達は、これから海へと遊びに向かう約束をしているのだ。


 半袖の柄シャツにハーフパンツ姿の孝之に、シンプルな白のワンピース姿の清水さん。

 二人とも、見るからにこれから夏を楽しみに行く気満々といった感じの服装だ。


 俺はというと、この日のために買っておいた半袖シャツにハーフパンツのセットアップを着ており、まぁ人のことは言えない服を着ている。

 だって今日は、前々から約束をしていた海へ遊びに行く日なのだ。

 今日が来るのをずっと楽しみにしていたし、空を見上げれば雲一つ無い最高の快晴。

 こんな気持ちのいい日、遊ばないと絶対に損だろう。


 というわけで、駅前で合流した俺達は最後の一人の到着を待つ。



「ごめんねみんな、遅くなっちゃった!」



 そして、俺の到着から少しの間を空けて最後の一人が到着する。


 へそ出しのトップスに、デニムのショートパンツ。

 色の薄いレンズのサングラスに、つばの大き目のストローハットはさながら女優さんのよう。

 上から薄手のカーディガンを羽織ってはいるが、長くスラリと伸びた生足は美しく、その姿に俺だけでなく孝之も清水さんも思わず目が離せなくなる。



「おはよっ! たっくん!」

「う、うん、おはようしーちゃん」


 こうして最後にやってきたのは、言うまでもないだろう。彼女のしーちゃんだ。

 いつも会っている自分の彼女だというのに、今日は何だかちょっと目のやり場に困ってしまう。



「あ、なーにたっくん? 顔が赤いよー?」

「そ、そんなことないと思うけど!?」


 きっと、しーちゃんも確信犯なのだろう。

 満足そうに微笑みながら、面白そうに俺の頬を指でつついてくる。

 そんなしーちゃんに対して、今日は俺の方がたじたじになってしまう。


 今隣にいるのは、かつて国民的アイドルと言われた超絶美少女。

 そんなしーちゃんの普段より派手めな服装だ、そんなもの意識しないでいる方が無理な話なのであった。



 ◇



「ふんふんふーん♪」


 電車に乗りながら、すっかりご機嫌な様子のしーちゃん。

 その鼻歌はエンジェルガールズの曲で、ご本人による鼻歌は脳内再生余裕だった。



「楽しそうだね」

「うんっ! 今日はずっと楽しみにしてたからねっ!」


 俺と同じで、しーちゃんも今日の日をずっと楽しみにしてくれていたようだ。

 ただ電車で移動しているだけでも、ニコニコと微笑んでくれているしーちゃんを見られるだけで、俺も幸せな気持ちでいっぱいになってくる。


 そんなこんなで俺達は、電車を乗り継ぎいよいよ海水浴場へとやってきた。

 有名な海水浴場もあるが、そこは人混みが激しいだろうということで、今回はちょっとマイナーなところへやってきた。


 おかげで、所謂パリピな人がいるというよりは、ファミリー連れとサーフィンを楽しむ人達がメインで落ち着いた感じだ。



「到着ー!」


 両手を広げながら、海へ到着したことを全開に喜ぶしーちゃん。



「さくちゃんっ! 行こっ!!」


 そしてしーちゃんは、清水さんの手を取るとそのまま海へと駆けて行く。



「何だか、女性陣の方がはしゃいでるなぁ」

「あはは、たしかに」


 正確には、女性陣と言うよりしーちゃんが、だろう。

 でも清水さんも満更ではなく、一緒に楽しそうに微笑んでいるから間違いではなかった。


 浜辺で波と戯れるしーちゃん達のためにも、まずは俺と孝之で場所を作ることにした。

 とは言っても、持ってきたシートを砂浜に敷きビーチパラソルを広げるだけ。

 飲み物は保冷バッグに入れてあるし、軽食なら海の家や近隣の喫茶店なども利用できることは把握済み。

 だからささっと準備を終えたところで、浜辺で遊んでいた二人もこちらへやってくる。



「ごめんね、準備ありがとう!」

「いいってことよ! とりあえず、女性陣から先に着替えてこいよ」

「うん、じゃあそうさせて貰うね」


 孝之の言葉に、清水さんは微笑みながら頷く。

 微笑み合う二人は、もう彼氏彼女を越えて夫婦のようにすら思えてくる。


 そんなわけで、まずは女性陣の方から、更衣室で水着へ着替えてくることとなった。



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 <あとがき>

 11月9日、本作クラきょどのコミカライズ1巻が発売となりました!

 初期しーちゃんの挙動不審の数々が、なんと漫画で読めてしまいます!!

 全国の書店様、またAmazon様やBook Walker様などの電子書籍でも読めますので、良ければコミックでもよろしくお願いしますね!!

 

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